イオン注入は、半導体の表面改質をする上で重要な工程です。深い知識やノウハウが必要になります。さらに、イオン注入装置は非常に高額な設備ですから、失敗せずに導入をしたいものです。
そこで、本記事ではイオン注入装置の原理・特徴やおすすめするメーカーを紹介します。また、設備投資する上で知っておきたいポイントもあわせて解説します。
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目次
イオン注入装置とは?
イオン注入とは金属表面にイオン(不純物)を注入する(打ち込む)ことです。「イオン注入装置」を用いれば対象物の電気的特性や材料特性を変え、新たな機能が付与されます。
イオン注入では注入量(ドーズ量)が調整できるため、機能的な製品を製造するには欠かせません。業界では主に、半導体製造時にシリコンウエハにイオンを注入する場合や、金属の表面改質に用いられるのが一般的です。
半導体製造時のイオン注入の役割
半導体製造では、フォトレジスト後に「イオン注入」をおこないます。基盤に使用されるシリコンは、単体では電気を流しません。イオン注入により、シリコンに半導体(導体と絶縁体の中間の性質を併せ持つ物質)の性質を付与できます。イオン注入装置の原理
イオン注入とは、イオンを電磁場にかけて加速させ、対象物の表面に打ち込むことで拡散層を形成させる技術です。半導体では、イオン注入で金属の構造内に不安定なイオンを無理やり埋め込んで、構造的欠陥を作り出す工程といえるでしょう。
半導体には「p型」「n型」があり、構造内の欠陥が異なります。p型半導体は、安定状態よりも電子が少ない状態です。主にホウ素(化学式:B)、アルミニウム(化学式:Al)、ガリウム(化学式:Ga)などのイオンを注入します。p型半導体を使った製品には、トランジスタ・発光ダイオード・太陽光パネルのような電子デバイスが挙げられます。
一方、n型半導体は安定状態よりも電子が多い状態です。アンチモン(化学式:Sb)、リン(化学式:P)、ヒ素(化学式:As)などのイオンを注入します。エッチング速度の向上や、誘電率の調整にも利用されます。
構造は? イオン注入装置の構成要素
さまざまな種類のイオン注入装置が各メーカーより販売されていますが、基本的な構造や原理は同じです。ここでは、基本的な構造について触れていきます。
- イオンソース(イオン源)
- 質量分離部
- イオン加速器
- スキャンシステム(ビーム照射・注入部)
- ウエハステージ ※クリックすると該当箇所まで飛びます
イオンソース(イオン源)
「イオンソース」とは、対象物の表面に打ち込む「イオン(不純物)」を作り出す部分です。フィラメントを電気加熱して発生した熱電子と原料ガスを衝突させて、イオンを発生させます。フリーマン型とバーナス型があり、現在では高い効果を得られるバーナス型が一般的です。質量分離部
「質量分離部」は、発生したイオンの中から必要なイオンを選び出す工程です。イオン化した元素には、複数の異なる質量を持つイオンが存在するケースがあります。イオンに電場・磁場をかけると曲がる性質を利用し、質量の異なるイオンを選別できるようになります。イオン加速器
イオン化された粒子を電場・磁場を使ってエネルギーを与えて加速させる工程が「イオン加速器」です。速度をもったイオンは運動エネルギーなどが非常に高くなり、対象物の表面に埋め込むことが可能です。半導体業界では、シリコンなどの金属にイオンを無理やり入れ込むために、中程度以上の電流を持つ加速器が使用されます。電子デバイスによってドーピングする量も異なり、用途に合わせて高電流の注入装置が必要です。
スキャンシステム(ビーム照射・注入部)
イオン加速器によって照射されたイオンビームは、スキャン(走査)システムにより密度と照射時間を制御して照射します。イオンビームは一定のパターンで照射されますが、隙間なく照射するにはスキャンシステムでイオンビームを調整する必要があります。スキャンシステムは大きく分けてふたつで、ラスタースキャンとハイブリッドスキャンです。
ラスタースキャンは、イオンビームを上下左右に動かして照射する方式です。ステージを動かす必要がないため、構造は単純化できるメリットがあります。しかし、対象物が大きくなるとビームの均一性が悪くなるという問題点を抱えていました。
一方、ハイブリッドスキャンは、ビームとステージを動かしてビームを照射します。ラスタースキャンではできないような大型の対象物でも均一に照射可能です。2024年現在、半導体のサイズは大型化している傾向もあってハイブリッドスキャンが主流になっています。
ウエハステージ
ウエハを固定し、適切な角度や位置でイオンが照射されるように制御します。温度管理や振動の抑制などの高度な制御機能を持っていることが特徴です。イオン注入装置の特徴・メリット
対象物の表面に不純物を注入する方法には、イオン注入のほかにも熱拡散法が挙げられます。しかし、イオン注入法には優れた特徴やメリットがあります。
- 精密な制御が可能
- 非接触プロセス
- 幅広い材料に適用可能 ※クリックすると該当箇所まで飛びます
精密な制御が可能
イオン注入装置は、注入するイオンの種類・濃度・エネルギーを正確に制御します。対象物内に正確な深さでイオンを打ち込むことが可能です。必要な特性を層ごとに形成できるメリットがあります。非接触プロセス
イオン注入は溶接・切削のような、力・熱を伴わないプロセスです。材料全体に大きな履歴をかけずに表面の改質がおこなえます。熱に敏感な材料でも、精密な処理が可能です。幅広い材料に適用可能
イオン注入と聞くと、半導体分野ばかり思い浮かべる方がほとんどです。しかし、イオン注入技術は半導体だけでなく、金属やセラミックなどの絶縁体など多くの材料に活用されています。どのようなタイプがあるのか? イオン注入装置の種類とそれぞれのメリット
目的や用途に合わせて、イオン注入装置が各メーカーより製造・販売されています。イオン注入装置は大きく分けて3種類です。各装置の特徴や得意分野を紹介します。
- 高電流イオン注入装置
- 中電流イオン注入装置
- 高エネルギーイオン注入装置 ※クリックすると該当箇所まで飛びます
高電流イオン注入装置
「高電流イオン注入装置」は、高電流イオンビームを発生できるように設計された装置です。イオンビームの電流は数~数十ミリアンペア、発生させられるエネルギーは数~200キロ電子ボルト程度のスペックを持っています。高いエネルギーをイオンに与えるため、ドーズ量も平方メートル当たり1018~1020と非常に多いことが特徴です。とくに、半導体分野で高濃度のイオン注入が必要な場合に用いられます。
中電流イオン注入装置
低・中程度のイオン注を精密注入するときに用いられるのが「中電流イオン注入装置」です。イオンビームの電流は数~1マイクロアンペア、エネルギーは数十~数百キロ電磁ボルトの範囲でイオンを加速します。ドーズ量は平方メートル当たり1015~1018程度です。汎用性が高く、低線量ドーピングが求められるトランジスタやダイオードなどのディスクリートデバイス製造で用いられています。
高エネルギーイオン注入装置
金属の深い領域へイオン注入をおこなう装置を「高エネルギーイオン注入装置」といいます。高エネルギーを確保するために、大規模な加速機構が備わっていることが特徴です。イオンビームの電流は数~数百マイクロアンペア、エネルギーは数百キロ電子ボルトで2価以上の多価イオンを用いれば最大メガ電子ボルトまでイオンを加速できます。高エネルギーイオン注入装置はSOI技術(Silicon on Insulator)で、深層に絶縁層を形成することを目的として盛んに使用されています。くわえて、スマートフォンやパソコンなどのパワーデバイスの製造にも有効です。高電圧を取り扱うパワーデバイスではデバイスの深部にドーピングを行う必要があり、高エネルギーイオン注入装置が使用されます。
イオン注入装置に続く次世代の技術|メリットについて
高いスループットや、素子の微細化・ウエハの大型化・高機能化のために次世代の注入技術も注目されています。
- プラズマドーピング装置
- レーザードーピング装置 ※クリックすると該当箇所まで飛びます
プラズマドーピング装置
プラズマによって対象物の表面に不純物を打ち込む方法が「プラズマドーピング」です。真空チャンバー内に不純物ガスを充満させ高周波電力を流して、プラズマ(不純物プラズマ)を発生させて注入します。プラズマドーピングの特徴は、大掛かりな真空チャンバーや加速器が必要ないことです。装置全体を簡単に構成でき、コストを低く抑えられる可能性があります。
また、プラズマでドーピングをおこなうため、対象物の側面にもドーピングが可能です。立体的なトランジスタ構造をしている3次元素子などの新しいデバイス構造にも、対応できる可能性があります。
レーザードーピング装置
「レーザードーピング装置」は減圧チャンバー内に不純物ガスを充満後、レーザー光を照射してシリコンウエハ表面を溶かしてドーピングをおこなう装置です。高い真空度が必要がなく、既存の設備や技術の組み合わせで実現できるメリットがあります。さまざまな課題がありますが、目的を限定して実用化されています。用途は? イオン注入装置の使い道
イオン注入装置は半導体以外にも金属業界などでも有効活用されていますが、供給の大半は半導体業界です。イオン注入と聞けば、半導体製造を思い浮かべる方も少なくありません。イオン注入装置は、現在の半導体業界に欠かせない装置といえます。
金属分野
イオン注入法の特徴を活かし、金属表層の機械的特性、化学的特性、電気的特性などの改質がおこなわれています。硬度・耐腐食性・離型性の向上等の機能を得られ、母材寸法の変更がなく処理できるのが大きなメリットでしょう。イオン注入装置市場の動向
多くの調査メーカーのレポートによれば、スマートフォンやIoTデバイスなどの半導体業界が拡大し続けているため、イオン注入装置の市場は今後も成長を続けると推測されています。
また、新興市場であるパワーエレクトロニクスやMEMS(微小電気機械システム)、先端材料など新たな市場も拡大しているようです。
選び方は? イオン注入装置選定の際の比較ポイント
イオン注入装置を導入する上で、考慮したい項目は製造品質とスループットです。装置が非常に高額になるため、目的に応じた設備選定が成功の秘訣といえるでしょう。ここでは、イオン注入装置選定のポイントを紹介します。
加速電圧
ド-ピング時にイオンの速度をどれだけ上げられるかの指標になるのが、加速電圧です。高い電圧になるほど深くイオンを打ち込み、深い領域での構造変化が可能になります。しかし、電極などの汚れや部品の劣化などでエネルギーが不安定になる場合があり、一般的に高電圧での使用が避けられています。最大エネルギー200keV以下で運転することが多いようです。
ビーム角度
ビーム角度が変動すると、イオンの注入深さやドーピングの均一性が変わります。とくに、半導体のシリコンウエハ表面の微細構造に対して特定の領域にイオンが過剰または不足して注入され、デバイスの電気的特性にばらつきが生じます。イオン源
イオン注入装置で用いられるイオン源には、一般的にフリーマン型とバーナス型などがあります。両者の違いはフィラメントの位置で、フリーマン型はアークチャンバ内、バーナス型はアークチャンバの端部です。最近ではフィラメントの高寿命化を狙い、フィラメントがプラズマにさらされないタイプや、イオン発生効率の改善を施したタイプが研究・開発されています。
スループット
スループットは生産性を向上させる上で非常に重要な因子です。スループットが低い場合、製造効率が下がり、コストが増大する可能性があります。各メーカーで高スループットのイオン注入装置の開発がされています。たとえば、ビーム電流の大幅改良、イオン源の立ち上げ時間短縮、装置や部品の高寿命化、メンテナンス性の向上などです。
イオン注入装置を製造・販売するおすすめメーカー
イオン注入装置は単純な原理でありながらも、豊富な知識がなければ製造できない装置です。ここでは、イオン注入装置を製造・販売するおすすめメーカーを紹介します。
アクセリステクノロジーズ(Axcelis Technologies)
「アクセリステクノロジーズ」は、米国に本社を置く半導体チップの製造に使用されるイオン注入装置などの設計・製造をおこなうメーカーです。あらゆる用途に対応するために、大電流・中電流・高エネルギーのイオン注入装置を取り扱っています。また、設備に加えて中古工具・スペアパーツ販売やメンテナンスサービスなど、幅広いサービスが特徴です。
同社が提供するフラッグシップシリーズ「ピュリオン」は、すべて共通のプラットフォームをベースにして、多彩なニーズに対応できるようになっています。高いスループットが特徴で最大500WPH(Wafers per hour)の設計が可能です。
アプラインドマテリアルズ(Applied Materials)
米国に本社を置く「アプライドマテリアルズ」は半導体製造メーカーですが、イオン注入装置も販売しています。ラインアップは、高電流・中電流・高エネルギーイオン注入装置にくわえて、次世代の技術プラズマドーピングを利用する装置があります。住友重機械イオンテクノロジー(Sumitomo Heavy Industries Ion Technology)
住友重機械工業は総合重機メーカーですが、グループ会社の住友重機械イオンテクノロジーは、国内の半導体製造用イオン注入装置のトップメーカーとしても有名です。最先端の半導体デバイス製造に対応した高電流・中電流・高エネルギーのイオン注入装置を製造・販売しています。大量生産時に重宝する高電流イオン注入装置ではバッチ式高電流装置と枚葉式高電流装置をラインアップしています。高精度かつ高品質で、生産性の高いイオン注入技術を提供しています。
イオン注入装置を導入し、大きく成長する半導体業界に貢献
スマートフォンやパソコンなどの高性能電子デバイスは、われわれの生活になくてはならない存在となりました。今後も多くの半導体が、生み出されていくことが予想されます。イオン注入装置は非常に高額な設備ですが、ニーズを的確に把握し、技術を積み上げていけばビジネスにつながる可能性があるでしょう。JET-Globalに問い合わせる
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