特に、少量多品種生産の現場では、効率化と柔軟性のバランスをどう取るかが課題です。株式会社田野井製作所(以下、田野井製作所)はこの課題に真剣に向き合い、協働ロボットの導入を決断しました。
同社がどのようにして導入を進め、現場での成功を収めたのか、その詳細に迫ります。協働ロボット導入に悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
田野井製作所が協働ロボットを導入した背景
田野井製作所は、1923年創業の老舗企業で、タップとダイスと呼ばれるネジを製造するための工具を専門に製造しています。日本初の転造タップ導入など、常に日本のものづくりを支えてきた歴史を持ち、2023年には創業100周年を迎えました。タップの専門メーカーとして、お客様のニーズに合わせた高品質な製品を提供し、ものづくりの現場に貢献しています。埼玉県白岡市に本社を置き、全国に事業を展開しています。
今回は、田野井製作所の代表取締役社長である田野井 優美様(以下、敬称略)と、ウィングロボティクスの馮 麗萍様(フォン リーピン)(以下、敬称略)に、田野井製作所への協働ロボットの導入経緯と、導入後の感触を伺ってきました。
今回お話を伺った企業
【会社名】株式会社田野井製作所【創業】1923年
【代表者】代表取締役社長 田野井 優美
【住所】埼玉本社 〒349-0226 埼玉県白岡市岡泉953
本日はお時間を頂き、ありがとうございます。
まずは、協働ロボットを導入されたきっかけを教えてください。
田野井:田野井製作所は、精密加工にある雌ネジや雄ネジを作るためのタップやダイスを製造しているメーカーです。元々、タップやダイスを効率的に製造するために、産業用ロボットを何台か導入していました。実際、産業用ロボットは同じ製品を何千という大きなロットで生産する際には、大きく役立ちます。その一方で、少量多品種生産を求められることが増えるにつれて、自分たちでは設定が難しい産業用ロボットだと生産性向上に間に合わなくなってきていました。
そこで、ちょうど困っていた時に、協働ロボットを扱うウィングロボティクスのフォン様と知り合いました。
ーー産業用ロボットでは、具体的にどんなことで困っていましたか?
田野井:大前提、産業用ロボットは生産効率が非常に高く、同じ作業を人間よりもかなり高速で行ってくれるので、大量に同じ型式の注文が発生した際には助かっています。一方で、最近増えている少量多品種の生産では、毎回設定を変えなければならない点で手間がかかっていました。産業用ロボット自体、操作や設定が難しいことに加えて、限られた人間にしか設定できない状況でした。そのため、結局手作業で加工をしなければならず、業務効率化ができていませんでした。
そこで、経営者交流会でご縁をいただき知り合ったフォン様から協働ロボットについてご紹介いただいて、今回導入に至りました。
ーー協働ロボットを導入する際、心配だったことは何ですか?
田野井:心配があった点と言えば、従業員からの反応とコストですね。従業員の中には、新しい技術や機械に対して疑問を持つ者も多く、せっかくコストをかけて導入しても使ってもらえない可能性がありました。
幅広い用途で使ってほしいと思っている協働ロボットですが、現場の方に使ってもらえないと、意味がありません。高い金額を投じた産業用ロボットでも、操作の難しさから操作できる人間も少なく、特定の用途でしか活用できていないことにもどかしさを感じていました。
しかし、いざ協働ロボットを現場で実装してみると、想像以上に使いやすかったです。今回ご紹介いただいたJAKAのロボットは、協働ロボットのアームを手で直接動かすだけで、動きをティーチングできます。ペンダントなしで直感的に動きを設定できるのは非常に大きなポイントでした。
フォン:そうですね。私は様々なメーカーの協働ロボットを扱ってきましたが、ペンダント操作が相変わらず必要なことが多いです。金額も高額で、産業用ロボットとあまり手間が変わりません。
JAKAはその中でも珍しく、手動で直感的に操作や設定が可能です。しかも、複数の動きを設定・保存し、必要に応じてすぐに設定を変更できます。
田野井:そうですよね。そのおかげで、従業員からも協働ロボット反対の声が上がるどころか、前向きに活用を進めてくれています。
実際、協働ロボットを動かし始めて数週間程度経った頃、工場内の機械保全を担当する土橋から「もうちょっと自分で研究して、自分でも設定・操作できるようにします」と前向きな言葉をもらえました。その言葉が、何よりも嬉しかったですね。
ーーそれは嬉しいですね!コスト面については、いかがでしたか?
ロボット講習会の修了証を手に記念撮影田野井:正直、産業用ロボットが高かった分、少し身構えた部分もありました。しかし、お見積りを頂いたら、想像していた以上にコストを抑えてもらえました。
また、そのほかにもフォン様からは補助金や助成金の紹介をしてくれたので、結果的に当初不安に思っていたようなお金の心配はせずに済みました。
フォン:私達は、ロボットの民主化を目指しています。つまり、誰でも、簡単に、気軽にロボットを活用できるような支援をして、特に中小企業を元気にしたいと考えています。
大企業は、潤沢に資金や人材もいるため、いざロボットを導入するとなっても人や技術に困っていません。
一方で、本当に製造工程を効率化したい、人材に困っている中小企業は、高額なロボットへの投資判断が難しいと感じています。私は、そういう企業にこそ協働ロボットを使ってほしいです。経営資源が有限だからこそ、ロボット運用は自社運用でないと意味がありません。
そのために、金額を抑えて、特別な技術が不要で、誰でも使える協働ロボットの導入支援を行っています。それに加えて、ウィングロボティクスでは協働ロボットを扱うための講習も提供していて、各社がロボットを自社運営できるような支援をしています。実際、田野井製作所にもこの講習を2日間にわたって提供できました。
田野井:導入時もそうでしたが、協働ロボットの講習では、実際に工場に来ていただいて直接動かし方をレクチャーしてもらいました。講習受講が完了したら、表彰状をもらえて、ロボットを扱うスキルを証明できます。
そのおかげもあって、土橋をはじめとする現場の技術者たちが前向きに協働ロボットを使ってくれています。
ーー他に産業用ロボットと違う点で助かったことは何ですか?
JAKAはスペースを取らずに設置が可能田野井:なんと言っても、省スペースですね。NC機の目の前に協働ロボットを設置しても、これまでの動線をあまり変えずに済んでいます。すでに多くの機械が工場内にあるからこそ、最小限のスペースで済むのは助かります。
産業用ロボットの場合、人と協働することが想定されていないため、可動域に人が入ると作業が止まったり、労災につながったりしてしまいます。そのため、産業用ロボットを大きな柵で囲う必要があり、結果的に大きなスペースを確保しなければなりません。
機械を動かしてレイアウトを変えるのはかなり手間なので、この点でも協働ロボットは非常に優れているように感じます。
ーー拝見した限りでも、設置の気軽さが違うように感じました。
ウィングロボティクスはどんな支援を行ってくれましたか?
フォン:ウィングロボティクスは、協働ロボットの導入支援のためのプロジェクトマネジメントや技術支援、トレーニングサービスを提供している企業です。今回のように、協働ロボットのシステム導入や講習を販売・提供することが多いですが、協働ロボットのサブスクでの導入サービスも提供しています。特に、ロボット一般は初期費用が高くなりやすいからこそ、販売という形よりもさらに気軽な、サブスクでの導入を目指しています。
田野井:今回の導入は、ロボットシステムを購入しての導入でした。そのため、お見積りの後にPoCで試験的な導入を試して、実際のロボットの動きを試しました。その時に動きに問題がなかったので、特に人財不足の問題が深刻な宮城工場での導入を進めました。
発注後は、数ヶ月程度でロボットを持ってきてくれて、現場の従業員に動かし方を説明しながらシステムの組み立てと設置を行ってくれました。その1ヶ月後には講習も行ってもらい、必要に応じてフォローしていただいています。
ーー導入がしやすいだけでなく、アフターサービスも充実していて安心ですね。
まだ導入してまもないですが、協働ロボットの効果は感じていますか?
田野井:費用対効果という面では、今ちょうど測っているところです。ただ、現時点で、生産性は1.54倍も上がっています。まだデータを計測中なので正確ではありませんが、導入して1ヶ月も経たないなかで、かなり高いパフォーマンスで動いてくれています。
じつは、NC機でも、最新モデルだとワークを自動供給してくれる機械もあるのですが、それこそ産業用ロボット並の投資になります。そういう意味でも、現時点で協働ロボットはかなり良い投資だと感じています。
また、従業員からはすでに「協働ロボットをもっと使いこなしたい」という声ももらっていて、積極的に業務効率化に取り組んでもらえそうだという印象も受けました。そのような取り組みは経営的にも非常に助かるので、今は実際に効率化の提案を受けることが楽しみです。
ーーありがとうございます。今後、貴社でのロボットの取り組みは広げていく予定ですか?
田野井:はい、今後も協働ロボットの導入を進めて、他の作業工程での自動化も進めたいですね。これからは、人がやるべき仕事とロボットに任せられる仕事に分けていく必要があると感じています。人がやるべき仕事とは、付加価値をつけるということです。単純作業よりは、業務効率化やさらに価値の高い仕事の企画など、人だからこそできることがたくさんあると考えています。
一方で、ロボットは24時間365日、時間外手当なく、そして疲れ知らずで作業を続けることができます。コストさえ乗り越えてしまえば、非常に効率的に仕事を進めてもらえます。
弊社の従業員には、単純作業こそロボットにまかせて、付加価値の高い仕事の割合を増やして、新しいチャレンジに取り組んでほしいですね。
ーー最後に、協働ロボットの導入に悩んでいる企業へのメッセージをお願いします!
田野井: 当社もやはり不安はありました。ですが今のままでは、これだけ外的環境が凄まじく変化しているので、変わっていかなくてはという思いがあります。周囲の企業のやり方が変わっていくことに気づきつつも、何から取り組んだら良いのかわからないことって、あったりするのではないでしょうか?
そんな時は、一旦変えたいことに一歩踏み出し取り組んでみる。その結果で考えてみても良いのではないかと思います。わからないことは不安ですけれど、一度踏み出すと、意外にも大丈夫だったりするものです。
また、ダメだった場合でも、何がダメだったのかを振り返る、やり方を変えていけそうならまたチャレンジしてみる。それでももし失敗だと感じたらやめるという選択肢もあると思います。
ですので、まずは一度行動してみてから考えてみる、ことをおすすめします。そのように一歩踏み出してみる!ことの背中を押してくださったのが、ウィングロボティクスさんでした。
最後に、何事も人とのご縁が本当に大事だと思いました。今回フォンさんと出会えたように!
ーーありがとうございました!
機械技術部部長・田野井利彰様(写真左)、田野井優美様(写真右)今回は、田野井製作所の田野井様とウィングロボティクスのフォン様にお話を伺いました。
協働ロボットはコンパクトで工場レイアウトを変更する必要がない上、誰でも操作しやすいことが特徴ということでした。
ウィングロボティクスに
協働ロボット導入の相談をする
同社が導入した協働ロボットと、導入を支援した企業はそれぞれ以下の通りです。
協働ロボットのメーカー
【会社名】JAKA Robotics Japan株式会社【設立】2019年
【代表者】社長 王 彦淇(ワン イェンチ)
【住所】〒461-0004 愛知県名古屋市東区葵1丁目6番14号1階
協働ロボット導入を支援した企業
【会社名】ウィングロボティクス株式会社【設立】2018年9月
【代表者】代表取締役 馮 麗萍(フォン リーピン)
【住所】〒135-0064 東京都江東区青海2-4-10