アイアンチップはんだ付けロボット

アイアンチップはんだ付けロボットのIC

はんだ付けロボットにはレーザー式などいくつかの方式がありますが、本記事で扱うのは、電気ごて(アイアンチップ)を用いてはんだ付けを行う、広く利用されているタイプの「アイアンチップはんだ付けロボット」です。

このタイプは熱伝導によるはんだの溶融と制御された圧力によって、様々な基板サイズや部品形状に対応可能な柔軟性を持ち、電子機器製造の現場で高い信頼性を発揮しています。

この記事では、そんなアイアンチップはんだ付けロボットの基本情報から、加熱方式による種類、最適な機種を選ぶためのポイント、そしておすすめのメーカーまで、導入検討に必要な情報を網羅的に解説していきます。

自社に適した一台を選び、生産性の向上を実現するために、是非ご参考ください。

目次

アイアンチップはんだ付けロボットとは? 特長や活用例などを解説

アイアンチップはんだ付けロボットとは?
アイアンチップはんだ付けロボットとは、はんだごての先端部分である「こて先(アイアンチップ)」を使って自動ではんだ付けを行うロボットです。

プログラムされた通りにロボットアームが動き、加熱されたこて先をはんだ付け箇所に正確に接触させ、糸はんだを供給・溶融することで電子部品などを基板に接合します。人手作業に近い原理で自動化を実現する、はんだ付けロボットの方式の一つとして、多くの製造現場で活躍しています。

次に、アイアンチップはんだ付けロボットの特長を確認しましょう。

3つの特長を解説

アイアンチップはんだ付けロボットは、多くの製造現場で活用されており、その理由となるいくつかの優れた特長を持っています。ここでは、その主な特長を3つご紹介します。まずは、各特長のポイントを以下の表にまとめました。

特長 要点 簡単な説明
安定した品質 確実な熱伝達(直接接触) 均一で信頼性の高いはんだ付けを実現し、品質のばらつきを抑制します。
高い汎用性 多様なはんだ付け方法・こて先交換 ポイント/スライドはんだ付けや様々な部品形状に対応可能です。
実績と導入・運用しやすさ 豊富なノウハウ、コスト効率、シンプルな構造 導入・運用コストを抑えやすく、安定した稼働とサポートが期待できます。

以下で、それぞれの特長について詳しく解説します。

1. 確実な熱伝達による安定したはんだ付け品質

アイアンチップの最大の特長は、加熱されたこて先(アイアンチップ)がはんだ付け箇所に直接接触する点にあります。これにより、対象物へ効率的かつ確実に熱を伝えることができます。

適切な温度管理と組み合わせることで、はんだの溶融不足や加熱しすぎといった不具合を防ぎ、均一で信頼性の高いはんだ付け品質を実現することが可能です。

人手作業では避けられない作業者による品質のばらつきを抑制し、製品全体の信頼性向上に貢献します。

2. 様々なはんだ付けに対応できる高い汎用性

アイアンチップ方式は、汎用性が高い点もメリットです。

電子部品のリードを一点ずつ正確に接合する「ポイントはんだ付け」はもちろん、コネクタの多ピンなどをなぞるように連続して接合する「スライドはんだ付け(引きはんだ)」など、様々な種類のはんだ付け作業に柔軟に対応できます。

さらに、こて先の形状やサイズをワーク(対象物)に合わせて交換することで、微細なチップ部品から比較的大きな部品、特殊な形状のランドパターンまで、多種多様な製品のはんだ付けに適用することが可能です。

3. 豊富な実績と導入・運用のしやすさ(コスト効率)

アイアンチップは、はんだ付け自動化技術として長い歴史と世界中での豊富な導入実績を持っているので、装置の運用ノウハウやトラブルシューティングに関する情報が多く蓄積されており、比較的安定した運用が期待できます。

また、他の高度な自動化方式と比較して、装置の構造が比較的シンプルであるため、導入時の初期コストを抑えやすく、操作方法やメンテナンスに関するオペレーター教育も行いやすい傾向があります。

消耗品であるこて先の選択肢が多く入手しやすい点も、運用面でのメリットと言えるでしょう。


これらの特長により、アイアンチップはんだ付けロボットは、品質、汎用性、コストのバランスに優れた自動化ソリューションとして、今なお多くの生産現場で重要な役割を担っています。

次に活用例を解説します。

活用例を紹介

アイアンチップはんだ付けロボットは、その安定性や汎用性の高さから、幅広い産業分野の電子機器製造プロセスで活躍しています。

ここでは、その主な活用例を分野別にご紹介します。まずは、主な活用分野と製品例、求められる要件の概要を以下の表にまとめました。

活用分野 主な製品例 求められる要件例
1. 民生用電子機器 スマートフォン、パソコン、テレビなど 高精度なはんだ付け、耐久性、コスト効率
2. 車載関連 ECU、センサー、メーター、カーナビ、バッテリー関連 高信頼性、耐環境性(振動・温度)、トレーサビリティ
3. 産業機器 FA機器、制御盤、通信インフラ、計測器 高信頼性、長寿命、多品種対応
4. 医療機器 精密な医療用電子機器 高い精度、信頼性、清浄度(クリーンルーム対応)
5. その他 試作品、研究開発、多品種少量生産 柔軟性、段取り替えの容易さ

以下で、それぞれの分野における具体的な活用例を解説します。

1. 民生用電子機器

スマートフォン、パソコン、タブレット、デジタルカメラ、オーディオ機器、ゲーム機、白物家電など、私たちの生活に身近な製品の多くにアイアンチップはんだ付けロボットが使われています。

これらの製品は大量生産されることが多く、コスト効率と安定した品質の両立が求められ、近年ますます小型・高密度化する基板上の微細な部品のはんだ付けにも、アイアンチップ方式の確実性が貢献しています。

2. 車載関連

自動車に搭載されるECU(電子制御ユニット)、各種センサー、メーターパネル、カーナビゲーションシステム、パワーウィンドウ制御部、さらにはEV(電気自動車)関連のバッテリー制御基板や充電器など、極めて高い信頼性と耐久性が求められる分野です。

アイアンチップは、振動や厳しい温度変化といった過酷な環境下でも性能を維持できる確実な接合品質を提供します。近年は、トレーサビリティ(生産履歴の追跡)確保のためのデータ管理機能を備えたロボットも重要視されています。

3. 産業機器

工場の自動化を支えるFA(ファクトリーオートメーション)機器、工作機械の制御盤、社会インフラを担う通信機器(基地局など)、高精度な計測器といった分野でも広く採用されています。

これらの機器は長期間にわたる安定稼働と高い信頼性が不可欠です。民生品ほどではないものの、比較的多品種の基板を生産することも多く、アイアンチップの持つ汎用性や段取り替えのしやすさが活かされています。

4. 医療機器

人命に関わることもある医療機器では、高い精度と信頼性、安全性が要求されます。

ペースメーカー、人工呼吸器、検査装置(MRI、CTなど)、生体情報モニターなどの内部に使われる精密な電子基板のはんだ付けに、品質の安定性に優れたアイアンチップが用いられています。

5. その他

上記の量産分野以外でも、試作品の製作や研究開発段階における精密なはんだ付け作業、あるいは品種が多く生産量が少ない多品種少量生産を行う現場などでも活用されています。

プログラム変更やこて先交換により、様々な仕様の基板や部品に柔軟に対応できる点が評価されています。


このように、アイアンチップはんだ付けロボットは、その特性を活かして、スマートフォンや家電といったコスト重視の大量生産分野から、ペースメーカーや航空機部品など信頼性が求められる分野まで、現代社会を支える多種多様な製品の製造現場で不可欠な役割を果たしています。

アイアンチップはんだ付けロボットの特長と活用例を確認したので、次章ではより具体的に種類ごとのメリットとデメリットを解説します。

種類ごとにアイアンチップはんだ付けロボットを解説

アイアンチップはんだ付けロボットの種類

アイアンチップのはんだ付けロボットは、こて先を適切な温度に加熱する必要がありますが、その加熱方式には主に「ヒーター式」と「高周波誘導加熱(IH)式」の2つがあります。

この章では、アイアンチップはんだ付けロボットのヒーター式とIH(高周波誘導加熱)式のメリットとデメリットを解説します。

ヒーター式(カートリッジヒーター等)

アイアンチップはんだ付けロボットのヒーター式は、こて先に内蔵した電気抵抗ヒーター(セラミック等)に通電し、その発熱によって直接こて先を加熱する、一般的な方式です。

ヒーター式のメリット

  • 構造が比較的単純なため他のタイプより導入コストが比較的安価
  • 加熱原理がシンプルで、技術として成熟しており、理解しやすい構造
  • 様々な形状やサイズのこて先(アイアンチップ)が市場に多く流通しており、選択肢が豊富

ヒーター式のデメリット

  • ヒーターで発生した熱がこて先に伝わるまでに時間がかかる
  • ヒーターは消耗品であり、長期間の使用により断線などの故障が発生する可能性があり、定期的な交換が必要
  • 瞬間的な負荷変動に対してこて先先端の温度を厳密かつ迅速に制御することが困難

IH(高周波誘導加熱)式

アイアンチップはんだ付けロボットのIH(高周波誘導加熱)式は、高周波誘導加熱(IH)の原理を用い、コイルからの磁界でこて先自体を直接かつ急速に発熱させる方式です。

高周波誘導加熱(IH)式のメリット

  • 熱応答性・熱回復性が高い
  • 応答性が速いため、設定温度に対して実際のこて先温度を安定させやすく、精密な温度管理が可能
  • 抵抗発熱体としてのヒーターが存在しないため、ヒーター断線による故障や交換の必要がない

高周波誘導加熱(IH)式のデメリット

  • 高周波電源や制御回路がヒーター式に比べて複雑になるため、装置全体の初期導入コストが高くなる傾向にある
  • 高周波を扱うための電源回路や制御系が複雑で、導入コストが高くメンテナンス・修理の難易度が上がる。
  • IH加熱に適した材質や構造を持つ専用のこて先が必要となるため、ヒーター式に比べて利用できるこて先の形状や種類のバリエーションが少ない場合がある。

この章では、アイアンチップはんだ付けロボットの種類を確認しました。次に、導入する際の選び方を解説します。自社に適したアイアンチップはんだ付けロボットを選べるよう、ご確認ください。

アイアンチップはんだ付けロボットの選び方を3つ紹介

アイアンチップはんだ付けロボットの選び方

アイアンチップはんだ付けロボットは、電子部品実装の自動化と品質安定化に不可欠な装置です。そして、その種類や機能は多岐にわたるため、自社の生産ラインや製品に最適なものを選ぶことが重要です。

ここでは、アイアンチップはんだ付けロボット選定における特に重要な以下の3つのポイントについて解説します。

基板形状と可動範囲の重要性

アイアンチップはんだ付けロボットを選定する際、重要なのは実装基板の部品配置や寸法に合わせて、狙ったはんだ付けポイントに正確にアクセスできるアイアンチップの形状とロボットの可動範囲を確認することです。

基板のサイズや部品配置の立体的な干渉が、アイアンチップはんだ付けロボットの選択肢を大きく左右します。もしこの点を考慮せずに選定を行うと、高密度基板でのはんだ付けが困難になり、ブリッジや接触不良が発生するリスクが増大します。

特に、複雑な基板形状や混載部品が多いラインでは、ロボットの軸構成やチップ形状選定を適切に行うことが重要です。適切な選定を行うことで、精密な位置決めが可能となり、狭ピッチ部品の余計なはんだ盛りや接触不良を予防することができ、製品品質の向上に寄与します。

温度制御性能

アイアンチップはんだ付けロボットの選定では、目標温度までの到達スピードと温度安定性をチェックし、使用するはんだや部品特性に対応できる温度レンジを備えた機種を選ぶことが不可欠です。

リードフリーはんだの使用や、熱に敏感な部品が多い場合には、ロボットの温度制御性能が選定の要素となります。もし温度が適切に制御されないと、はんだが十分に溶けずに濡れ不良を起こしたり、部品に熱ダメージを与えることになります。

多様な製品に対応するラインや熱に弱い部品が多い環境では、温度管理が特に重要です。適切な温度管理を実現することで、チップの寿命が延び、チップ交換や工程停止の頻度を減らすことができ、長期的なコスト削減にもつながります。

供給精度と調整機能の重要性とフラックス・ワイヤーの適切な調整

アイアンチップはんだ付けロボットの選定では、はんだワイヤーやフラックスの種類に応じた供給量の調整機能と供給精度を確認することが重要です。

使用するはんだ径やフラックス特性、実装環境によって供給精度や噴射制御が異なり、これがロボットの選択に大きく影響します。供給が不安定だと、過剰なはんだやフラックスの飛散を招き、修正作業の手間が増える可能性があります。

特にクリーン環境下での精密実装や、はんだ種の切り替え頻度が高いラインでは、供給調整の柔軟性が重要です。適切な供給制御を行うことで、不要なはんだ盛りやリペア作業を減らすことができ、生産ラインの効率が向上します。

アイアンチップはんだ付けロボットのおすすめメーカー

アイアンチップはんだ付けロボットのおすすめメーカー

ジャパンユニックス / JAPAN UNIX

メーカー名 ジャパンユニックス / JAPAN UNIX
設立年 1974年
本拠地 東京都港区
概要 はんだ付けロボットおよび周辺機器の設計・製造・販売を行うメーカー

ジャパンユニックスは、1974年に設立された日本唯一のはんだ付けロボット専業メーカーです。

同社製のアイアンチップはんだ付けロボットのDFシリーズは、品質の安定性と生産過程のデータトレーサビリティを実現しており、専用モニタリングソフトウェアを活用することで、工程データの「見える化」や管理を可能にしています。

自動車部品やエレクトロニクス製品など、信頼性の高い業界で広く導入されており、特に品質管理が厳しい分野でその強みを発揮しています。

津々巳電機 / Tsutsumi Electric

メーカー名 津々巳電機 / Tsutsumi Electric
設立年 1952年
本拠地 東京都大田区
概要 はんだ付けロボットや関連装置を製造・販売する産業用機械メーカー

津々巳電機は、1952年に設立された特殊工法やカスタマイズ対応力に優れた産業用機械製造メーカーです。

同社が手がけるアイアンチップはんだ付けロボットのMINIMAXシリーズは、レスポンスの良い温調機能を備え、高品質で安定したはんだ付けを実現しています。

同社の製品は、自動車関連、電子部品業界、医療機器など、多岐にわたる産業で広く活用されています。

アポロ精工 / Apollo Seiko

メーカー名 アポロ精工 / Apollo Seiko
設立年 1969年
本拠地 静岡県御殿場市
概要 自動はんだ付け装置および関連機器の製造・販売を行うメーカー

アポロ精工は、多様な製品ラインナップとカスタマイズ対応力を持つメーカーで、特に同社のアイアンチップはんだ付けロボット、J-CAT LYRAシリーズが注目されています。

このシリーズは、交換可能なアイアンカートリッジ技術を採用しており、工具不要で8秒以内に交換可能です。また、交換後も高い精度で位置復帰する点が特徴です。

自動車、バイオテクノロジー、エレクトロニクスなど、さまざまな業界で採用されており、その高い精度と信頼性が求められる分野で活躍しています。

白光 / Hakko

メーカー名 白光 / Hakko
設立年 1954年
本拠地 大阪府大阪市
概要 はんだこてを中心とした温度コントロール機器およびはんだ付けロボットの製造・販売を行うメーカー

白光は、世界60カ国以上で展開しているトップブランドで、特にアイアンチップはんだ付けロボットのHU-200シリーズが有名です。

±0.01mmの高い位置再現性と直感的なジョイスティック操作により、精密なはんだ付けを実現します。

自動車、航空宇宙、医療、通信分野などの先端技術分野で特に評価されており、電気自動車や人工衛星開発などの高精度な製造現場でも活躍しています。

太洋電機産業 / Taiyo Electric Industry

メーカー名 太洋電機産業 / Taiyo Electric Industry
設立年 1965年
本拠地 広島県福山市
概要 はんだ付け関連製品の総合メーカー

太洋電機産業は、一貫生産体制により少量多品種生産を得意とするメーカーです。

同社のアイアンチップはんだ付けロボットFAシリーズは、窒素ガス対応機能により部品やこて先の酸化を防ぎ、高品質なはんだ付けを実現します。

自動車、家電、スマートフォンなど、特に高精度が求められる電子機器分野での導入実績があります。