市場では、安価で高性能な電子デバイスが求められています。企業が生き残るためには、価値のある製品を無駄なく創り上げていく必要があるでしょう。
CVD技術は、機能性を持った薄膜生成ためには必要不可欠。ここ数十年で大きく技術を伸ばし、さまざまな新技術が開発されています。
そこで、本記事では高機能性薄膜を成膜するために必須なCVD装置に着目。各CVD技術の特徴を紹介します。さらに装置導入のサポートのために、設備選定のポイント・製造メーカーにも触れていきます。
目次
CVD装置の特徴
CVD(Chemical Vapor Deposition/化学気相堆積)は、空気中に原料ガスを供給して化学反応を起こし、基板表面などに薄膜を体積させる技術です。
均一かつ高機能な薄膜を生産するのに適しており、半導体・ディスプレイ・太陽電池などの製造で重要な役割を担っています。
CVD装置の構造・原理
極薄膜を堆積させるCVD装置は非常に複雑な構造をしています。装置選定を失敗しないためには、機械構造から理解する必要があるでしょう。ガス供給システム
CVD膜を生成するためには、原料となるガスが必要です。ガスが不足すれば、適正な成膜ができなくなりますから、安定して供給できる装置が必要になります。チャンバー
実際の化学反応と蒸着プロセスが行われる「場」です。密閉され、適切な温度、圧力、ガスの組成を維持できるように設計されています。基板ローディング機構
ウエハー(半導体などに使用される高純度の金属板)などをチャンバー内に導入・除去するための機構です。エネルギー源
前駆体の化学反応と、蒸着を促進するためには、エネルギー源が必要です。抵抗加熱、誘導加熱、プラズマなどがエネルギーになります。真空システム
高品質のCVDを堆積させるためには、不純物が少ない環境が必要です。チャンバー内を減圧・真空状態に保ち、不要なガスを除去します。排気装置
化学反応後のチャンバーに発生した不要な揮発性ガスを除去する装置です。プロセスの安定性と清浄度を維持します。排気処理システム
CVD膜生成工程で発生するガスは、地球環境に害を及ぼす場合があります。廃棄前に無害な化合物に変換するために、排気処理システムが必要です。プロセス制御機器
センサーなどの制御機器は、圧力・温度・時間などの数値を「見える化」します。CVD膜の品質は、成膜中に目視・検査で確認できないことがほとんどです。制御機器の数値で、品質管理をします。
5種類のCVD装置の特徴やメリット・デメリット
半導体や太陽光パネル需要により、CVD技術は大きく進歩してきました。現在では、多くの手法が生み出されています。
ここでは、各方法の特徴と適切な設置場所について触れていきます。
- APCVD(Atmospheric Pressure CVD/大気圧CVD)
- LPCVD(Low-Pressure CVD/低圧CVD)
- PECVD(Plasma-Enhanced CVD/プラズマCVD)
- MOCVD(Metal Organic CVD/金属有機CVD)
- ALD(Atomic Layer Deposition/原子層堆積)
APCVD(大気圧CVD)の特徴
大気圧下で行われるCVDプロセスです。化学蒸気と反応表面の間の動力学を活用して膜を成長させます。APCVD(大気圧CVD)のメリット
真空・減圧環境にする必要がありませんから、真空ポンプ・排気が必要ありません。機械設計を単純化できます。CVD装置の中では導入がしやすい上、大量生産に向いている方式です。生産効率が優先される大規模な製造環境に適しています。
APCVD(大気圧CVD)のデメリット
大気圧下では、成膜基板の表層付近に気体の対流層が発生。原料ガス・反応生成ガス拡散が懸念点です。また、800〜1000℃程度の高温環境になるため、熱に弱い基盤は使用できないデメリットがあります。高精度CVD膜は高熱が求められるため注意が必要です。
LPCVD(低圧CVD)の特徴
APCVD(大気圧CVD)の問題点を改善するために開発された技術が、LPCVD(低圧CVD)です。半導体や研究機関のような、均一で高精度な膜が必要とされる分野に広く使用されています。LPCVD(低圧CVD)のメリット
低圧状態は、大気圧と比較して、不要なガスや生成物を除去できます。原料ガスがチャンバー内を拡散しやすくなり、基板上に膜厚が均一に堆積できることがメリットです。品質が高い膜の製造に利用されます。LPCVD(低圧CVD)のデメリット
低圧とはいえ、高温での成膜です。熱に弱い基板の場合には、歪みなどのトラブルを避けられません。真空ポンプを用いた排気が必要になるため、APCVDと比較して導入時のコストがアップします。
PECVD(プラズマCVD)の特徴
原料ガスをプラズマによって分解し、低温で膜を成長させるCVD技術です。プラズマは、分子が「電離」によって発生した荷電粒子を含む気体を指します。有機材料や、プラスチック基板コーティングのような、熱に敏感な材料に適しています。
PECVD(プラズマCVD)のメリット
プラズマのエネルギーを用いることで、低温で安定した成膜が可能になりました。大気圧CVDでは400〜800℃程度の温度を、250〜600℃程度まで下げることができます。熱に敏感な材料に対しても、高品質な膜形成が可能です。
PECVD(プラズマCVD)のデメリット
高精度の膜を形成できることから、装置がより複雑です。従来方法よりも低温ですが、それでも温度は600℃程度。加えて、プラズマを発生させても、安全に使用できる設備が必要です。そのため、対応するCVD装置のコストが高額になります。費用対効果をよく考えての導入が必要でしょう。MOCVD(金属有機CVD)の特徴
有機金属化合物を前駆体として使用するCVDプロセスです。基本的な原理は通常のCVD技術と同じですが、有機金属化合物を水素ガスでバブリングして供給する点が異なります。MOCVD(金属有機CVD)のメリット
MOCVDは、原料ガスを650〜750℃程度の高温で熱分解し、均一な薄膜生成が可能です。量産性に優れていて、高度な半導体材料の製造に適しています。MOCVD(金属有機CVD)のデメリット
金属有機化合物は扱いにくく、人体に有害です。専門的な知識と厳格な安全管理が必要なため、取り扱いには十分注意をする必要があります。ALD(原子層堆積)の特徴
原子層単位で薄膜を成長できるCVDの一種ともされる技術で、極めて緻密で均一な膜成形が可能です。化学物質の自己制御性を原理とした成膜のため、複雑な3D構造のデバイス製造に適しています。ナノテクノロジー、マイクロエレクトロニクス、光学コーティングなどの分野で使用されています。ALD(原子層堆積)のメリット
化学反応を駆使し、分子を置き換えながら膜を堆積させる方法のため、非常に高い均一性と、精度の高い膜厚制御が可能です。他のCVD方法と比較して、3次元の複雑構造への成膜を得意とします。ピンホールのような極細の孔にも成膜可能です。
ALD(原子層堆積)のデメリット
ALD方式は、多くのプロセスを別々に行います。成膜には多くの時間をかけてしまうため、製造コストが高くなることが懸念点です。しかしながら、プラズマ技術の導入により以前より生産性は向上しています。技術開発が進めば、現実的なレベルになるかもしれません。
CVD装置の設置場所
CVD装置を設置する際には、以下を考慮してください。必要に応じて、専門の設備設計者や安全管理者に相談することをおすすめします。
安全性
CVDプロセスでは、化学反応中に有害なガスを排出します。十分な換気が確保された場所への設置を推奨します。可燃性ガスや化学薬品を扱う場合は、消火設備や安全対策が整っているか確認しましょう。クリーンルーム環境
CVD装置は、クリーンルーム内に設置されることが多いです。半導体やナノテクノロジーでは、ホコリやゴミなど不純物が入らない清潔な環境が必要とされます。温度と湿度のコントロール
CVDプロセスは、温度や湿度に敏感です。常に温度・湿度がコントロールされた環境で運用することをおすすめします。電源とガス供給
装置の種類にもよりますが、一般的に高電力と特定のガス供給が必要とされます。適切な電源供給とガスラインの設置が必要です。5つの比較基準 | CVD装置の選び方
目的の製品を生産するためには、十分にスペックを満たしたCVD装置が必要です。ここでは、CVD装置の選び方のポイントとなる要素について触れていきます。
反応ガスの流量
流量の変化は、堆積される膜の特性や効率に大きな影響を与えます。要求品質と損益分岐曲線から、どの程度の流量が必要か確認しておけば安心です。反応室の温度
温度の変動は、化学反応の速度と膜の成長メカニズムに影響し、膜の品質に変化をもたらします。長期で使用した際に、チャンバー内の環境をどれだけ維持できるか、メンテナンス性はどのくらい必要か確認していきたいものです。圧力
圧力は、化学反応の効率を高め、高密度膜・厚膜生成に影響します。製造物の品質を左右するため、変動はできるだけ少なくしたいものです。しかしながら、安全面にも注目してください。高圧高温は過酷な環境です。装置に高いストレスを与えます。使用ガスも人体に無害ではなく、装置の破損は絶対に避けなければいけません。安全性を考え、装置の耐久性を評価してください。
基板の種類
熱に影響を受けやすい基盤の場合、チャンバー内の温度に制限ができます。チャンバー内の温度は、膜の密着性・生産速度に大きく影響します。使用する基盤の耐熱性を予め把握した上で、CVD装置の検討を行うとよいでしょう。プロセス時間
チャンバー内の圧力、温度、ガス流量などさまざまな要素によってプロセス時間は変化します。製造品質・生産サイクルを考え、総合的な評価が必要です。要求品質・必要数量・費用などを考慮して選定してください。CVD装置を製造する主要メーカー3社
ここでは、CVD装置を製造するメーカーを紹介します。東京エレクトロン | ASM インターナショナル |
大陽日酸 | |
---|---|---|---|
APCVD | ◯ | – | – |
LPCVD | – | ◯ | – |
PECVD | – | ◯ | – |
MOCVD | – | – | ◯ |
ALD | ◯ | – | – |
東京エレクトロン
東京エレクトロンは 半導体製造装置分野において、世界的なリーダーの一角を占めています。世界中に営業拠点や研究施設を持ち、国際的な事業展開をしています。
- 特に微細加工技術やプロセス統合技術において定評あり
- エッチング装置、薄膜形成装置、洗浄装置など、半導体製造に必要な様々なプロセスをカバーする製品を提供
- 長期にわたる安定稼働が可能
- 特定の製造プロセスや要求仕様に合わせた製品を提供
- 充実したアフターサービスと技術サポートを提供
ASMインターナショナル
ASMインターナショナルは、半導体製造装置の分野で特に薄膜堆積技術において世界的なリーダーです。1968年に設立され、本社はオランダにあります。半導体製造装置の開発、製造、販売を事業の中心としています。
- ALD(原子層堆積)技術の商業化に成功した先駆者
- 顧客の特定のニーズに合わせたカスタマイズが可能な装置を提供
- 長期間にわたる運用コストの削減に貢献する高生産性の装置を製造
- エネルギー効率の高い製品を提供し、持続可能な製造プラクティスを推進
大陽日酸
大陽日酸は、1939年に創業し、本社を東京都港区に構える日本の産業ガス市場のリーダーです。産業ガスの製造・販売、化学品の販売、医療ガスの供給、関連機器やプラントの製造・販売など幅広い事業を展開しています。- 安定したガス供給と純度管理に優れた高品質な産業ガスを供給するシステムを提供
- 半導体製造から鉄鋼、化学、医療分野に至るまで、幅広い業界に対応したガス供給システムを提供
- 環境への影響を考慮した製品開発と、安全で効率的なガスの使用を可能にする技術
- 顧客のニーズに合わせて、特定の要件に応じたガス供給システムの設計・製造が可能
- 高い技術力と豊富な経験を活かしたサポート体制と、充実したアフターサービス