本記事では、ROVの種類や選び方、そして各メーカー・企業が提供する製品について詳しく解説しています。
ROVにはそれぞれ異なる特性があり、用途や作業環境に応じた選定が必要です。深海での高圧環境に適した大型ROVや、浅海での機動性を重視した小型ROVなど、それぞれのメリット・デメリットも取り上げています。
特に、企業別の特長や、ROVを導入する際の留意点として、コストや操作性などを比較することで、貴社の意思決定をサポートします。
安全性を確保しつつ、効率的な作業を行うための選定基準を網羅しているので、ROVの活用を検討されている方はぜひお読みください。
目次
ROVとは
ROV(Remotely Operated Vehicle)は、水中で遠隔操作によって作動する無人の水中ロボットの一種です。
ROVは通常、ケーブルで船上部ユニットと接続されており、操縦者が岸壁や調査船などからカメラ映像やセンサー情報を確認しながら操作します。深海探査、石油・ガスの海底設備の点検・修理、科学的調査、沈没船の調査、海洋環境保護、そしてダムや港湾岸壁などの水中インフラ点検など、さまざまな水中作業に利用されます。
多様な付属装置が搭載されているROVは、非常に高い汎用性を持つ水中観測・作業ツールです。一般的には以下のような部品から構成されています。
- 制御装置 操縦者の指示を受けてスラスターやセンサーを動かすコンピュータ。近年は(空中)ドローン向けのフライトコントローラーが採用されることが多い
- ジャイロコンパス 機体の姿勢や方位、角速度を計測するセンサー
- 圧力センサー 水圧を計測するセンサー。水圧は深度に比例するので、機体の深度を求めることができる
- スラスター 機体を水中で移動させるための推進器。モーターとプロペラを組み合わせたもの
- カメラ 水中の映像を撮影するためのカメラ
- ライト 水中の暗い場所で撮影するためのライト
- テザーケーブル 機体とコントローラーを物理的に接続するためのケーブル
- マニピュレーター 水中で作業する際に必要となるアーム
ROVの最大の利点は、人間が到達できない極限環境、例えば深海や高圧・低温の危険な場所での作業を可能にする点にあります。特殊環境下で安全かつ効果的に作業を行うための重要なツールとして、ROVは今後もその利用範囲を広げていくことが期待されています。
水中ドローンとROVの違い
水中ドローンとROVは、両者ともに密接な関係にあり、水中での観測や作業に使用される水中ロボットです。
ROVは大規模な産業用途に対応できるよう設計されており、深海での作業や精密な操作が可能です。ROVも同様にテザーケーブルが付属しており、操縦者が地上や船上から遠隔操作しながらリアルタイムで映像やデータを確認できます。
また、作業用のアームや多種多様なセンサー、ソナーを搭載することもあります。海底の構造物の点検や修理、試料採取といった複雑な作業もこなせるため、ROVは高度な水中作業が必要な場面で欠かせない存在となっています。
一方、水中ドローンは小型のROVの通称です。比較的簡易な操作や観測に適しており、趣味や研究機関の初歩的な探査でよく使用されます。
一般的には、価格が手頃で、軽量で携行性が高いのが特長です。水中ドローンはカメラやセンサーを搭載し、リアルタイムの映像を確認することができますが、作業用のアームなど高度な機能は限られています。
ROV (Remotely Operated Vehicle) |
水中ドローン (小型のROV) |
|
---|---|---|
操作方法 | テザーケーブルを使用した 遠隔操作 |
テザーケーブルを使用した 遠隔操作 |
リアルタイム制御 | 〇 | 〇 |
用途 | 水中での観測や作業 (リアルタイムでの映像やデータ収集) |
水中での観測や作業 (小規模での使用) |
ROVのサイズと用途
ROVは、そのサイズに応じて様々な用途で活躍します。大型、中型、小型それぞれが持つ特性により、海洋探査から産業用作業まで幅広い分野で使用されています。
大型ROVの用途
主に深海での複雑な作業や高難易度な海洋調査に使用されます。石油・ガス産業において海底パイプラインの設置やメンテナンス、海底油田の点検や修理など、高度な技術が求められる場面で活躍します。
また、科学的な海洋調査では、深海生物の観察やサンプルの収集、地質調査にも使用されます。
さらに、沈没船の探査や回収作業、海底ケーブルの敷設、軍事用途における爆発物の処理など、非常に多岐にわたる用途で利用されています。
中型ROVの用途
主に海洋調査や水中点検、修理作業などの中程度の深さや複雑な作業に適しています。大型ROVほどの重機的な力は持たないものの、石油・ガスの海底施設の点検、港湾や橋梁の基礎構造物の調査、ケーブルやパイプラインのメンテナンスに広く使用されています。
また、災害時の沈没船や海中のがれきの調査、潜水士が届かない範囲での作業支援なども行います。
中型ROVは、比較的高い機動性とコストパフォーマンスの良さから、漁業や環境モニタリングにも利用されており、ソナーやカメラに加えて簡易的なアームも搭載できるため、軽作業や試料採取などの実務にも対応できます。
小型ROV(水中ドローン)の用途
小型のROV(水中ドローン)は、主に浅海や沿岸での軽度な観測や点検、調査に使用されます。高い機動性により、狭い場所やアクセスが難しいエリアでも操作が可能です。水中ドローンは、価格が手頃で操作も比較的簡単なため、個人や研究機関の使用に適しており、趣味のダイビングや海洋生物の観察などを目的に、水中カメラの撮影で使用されることが多いです。
また、水中測量にも使用されることがあります。海底の地形や水中構造物の形状、位置などを潜水士に代わって小型のROVで調査するのが水中測量であり、科学研究や環境保護、インフラの保守点検など、その目的は多岐にわたります。
大型ROV | 中型ROV | 小型ROV (水中ドローン) |
|
---|---|---|---|
適した用途 | 深海の複雑な作業や広範な観測 | 海洋調査や水中点検 | 浅海や沿岸の軽度な観測や点検 |
具体例 | 海底パイプラインの設置やメンテナンス | 基礎構造物の調査 | 水中カメラ撮影、水中測量 |
導入事例は? ROVの利用場面を3つ紹介
ROVは、以下のような場面で活用されることが多いです。
- ダムや濁った水の中での点検
- 人間が潜れない場所での作業
- 事故や災害現場の捜索や救助
事例1:ダムなど濁った水の中での点検
ROVは、ダムや濁った水の中での点検に非常に有効です。視界が悪い環境でも、ROVはソナーや高性能カメラを駆使して構造物の確認が可能です。小型から中型のROV(例えば、全長1メートル未満)がよく使用され、狭いエリアでも機動力を発揮します。ダムの壁面の損傷や堆積物の調査、排水口の閉塞点検などを効率的に行え、潜水士による作業リスクを軽減し、作業効率を向上させます。
事例2:深海など人間が潜れない場所での利用
深海などの人間が潜れない場所でのROVの利用は、特に高度な性能が求められる観測や海底作業時には欠かせません。作業には大型ROVが使用され、深海の高圧・低温環境でも稼働可能です。石油・ガスの海底インフラの設置やメンテナンス、沈没船の調査、深海生物の研究など、極限環境での作業が可能です。潜水士が到達できない場所での安全な作業が実現し、効率的かつ精密な観測を行うことができます。
事例3:事故や災害現場の捜索や救助
ROVは、事故や災害現場の捜索や救助活動にも重要な役割を果たしています。水中での事故や災害時に、潜水士が入れない場所や危険な状況で使用されます。中型から大型のROVが使用され、ソナーなどを駆使して視界不良の環境でも迅速に状況を把握します。船舶の沈没現場や橋梁の崩壊現場での捜索活動において、被害者や物体の位置特定、障害物の除去などが可能で、迅速な対応が求められる場面で活躍しています。
また、災害現場においては、冠水したエリアでの捜索活動なども挙げられます。ROVは濁った水中でもソナーや高性能カメラを駆使して視界を確保しながら、がれきなどで人間が潜れない危険な環境でも正確な調査が可能です。
ROVを活用するメリット・デメリット
ROVはマニピュレーターを使用した水中での作業や詳細な調査などにおいて大いに活躍しますが、一方で導入する上で留意した方が良い注意点もあります。それぞれ、順番にご紹介します。
メリット
ROVの導入は、以下のメリットがあります。
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潜水士の安全性を確保
ROVは潜水士の安全性を大幅に向上させます。特に、深海や視界が悪い水中、構造物の内部など、潜水士が危険にさらされる可能性がある場所での使用が効果的です。ROVは遠隔操作により、人間が直接アクセスできない場所での作業を代行し、構造物の点検や沈没船の調査、海洋環境のモニタリングなど、幅広い用途に対応します。また、リアルタイムでデータを収集し、迅速な意思決定を支援することができるため、長時間の観測や継続的な監視が必要な場面でも有用です。
潜水士を危険な状況から遠ざけ、かつ精密な作業が可能になるため、安全性と効率性の両面で大きなメリットを提供します。
コスト削減と作業効率の向上
ROVの使用により、コスト削減と作業効率の向上が実現します。まず、潜水士を必要としないことで、潜水病治療や高度な訓練にかかる費用を削減できます。また、ROVは給電式やバッテリー交換可能なモデルがあり、長時間の作業を効率的に行うことが可能です。
人手による作業よりも継続的かつ精密な観測や作業が可能となり、プロジェクト全体の時間効率が向上し、最終的に全体コストの低減につながります。
デメリット
一方で、ROVを導入する上で以下の2つに注意する必要があります。
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活動範囲がケーブルの長さで決まる
ROVの活動範囲はテザーケーブルの長さによって大きく制限されます。ケーブルは母船からROVに電力を供給し、データを伝達するため、ケーブルの長さが物理的にROVの可動範囲を決めます。特に、深海での観測や作業では、長いケーブルが必要となり、そのための設備やコストが増加します。
バッテリー式ROVや将来的な無線通信技術の開発が進めば、こうした制約を解消し、より柔軟な作業が可能になると現在期待されています。
操作が難しい場合がある
ROVの操作は、3次元空間での制御が必要なため、非常に複雑で難しい場合があります。水中環境は不確定要素が多く、特に潮汐などの流れの影響や暗渠や濁りなどによる視野の制限が操作をさらに困難にします。また、ROVの制御システムも複雑なため、操縦者には高度なスキルが求められます。
これを解決するためには、直感的な操作システムを持つモデルを選択したり、訓練プログラムを受講することが有効です 。AIや各種搭載センサーを活用して一部の操作を自動化することも効果的です。
選定基準は? ROVを選ぶ際に押さえておきたいポイント
貴社に最適なROVを選定するには、以下の4点を検討しておく必要があります。
作業深度
ROVの選定基準において、作業深度は重要な要素です。浅海域での調査や点検には、小型で機動性が高いROVが適しています。これらは比較的浅い水深での迅速な動作が可能で、アクセスしやすいエリアでの作業に向いています。
一方、深海域での調査や作業には、耐圧性が高く、長時間にわたって安定した運用が可能な大深度対応ROVが必要です。これにより、極限環境下での作業でも信頼性が保たれ、深海の探査や点検作業が安全に行えます。
作業内容
作業内容に応じて、選ぶと良いROVが異なります。映像撮影が主な目的の場合、4Kカメラやズーム機能、水中照明を搭載したROVが最適です。
物体を掴んだり、移動させる作業には、マニピュレーターを搭載したROVが必要となり、その可動範囲や把持力も重要な要素です。
環境モニタリングでは、水温や塩分濃度を計測するセンサーを搭載したモデルが求められ、濁水中の作業では高性能カメラやソナーで視界を確保する必要があります。
環境条件
ROVを使用する予定の環境条件も選定する際には非常に重要な要素です。まず、寒冷地では船上での投入作業中の温度低下によりROVが起動しないことがあります。一方で夏場における直射日光の影響で高温になると熱暴走で起動しなくなることもあるため、注意が必要です。
また、水深が深くなるにつれて水圧が増すため、ROVには高い耐圧性が求められます。流れの速い環境では、ROVが安定して作業を行えるよう、機体の推力や姿勢制御能力が必要です。他にも、使用予定の環境で暗渠や濁りなどによる視野の制限が予想されているのかどうかなども検討事項となります。
これらの環境条件における使用に耐えうるROVを選定することで、観測や作業の安全性と効率性が向上します。
操作性
ROVの操作性を考慮する際には、遠隔操作の使いやすさと、深度保持や姿勢保持などオペレーターを支援する機能の有無が重要です。遠隔操作では、操作インターフェースが直感的で使いやすく、ケーブルの長さによってROVの移動範囲が変わるのがポイントです。水中の環境や潮流に影響されやすく、ケーブルが水中で引っかかると復元するのに時間がかかります。
また、深度を保持したり、ROVの姿勢を保持してくれる支援機能やカーナビのように現在地を表示するナビゲーション機能が搭載されているかどうかも操作性に関わります。3次元における機体の操作は使用する環境によって難易度が変わるため、支援機能の有無は検討事項のひとつとなります。遠隔操作の場合は以上のポイントに注目して選ぶと良いでしょう。
一方、自律航行機能を求める場合は、ROVではなく、無人で潜航して調査する水中ロボットAUV(Autonomous Underwater Vehicle)の方が適しているかもしれません。AUVは事前に設定したルートを自動で移動できるため、広範囲な観測や調査が必要な場合に非常に便利です。
専門家コメント
佐藤 友亮(さとう ゆうすけ)
一般社団法人 日本ROV協会 代表理事
ROVはこれまで潜水士が行っていた計測や作業などを一部代替することが可能です。
一方で潜水士ほど汎用性が高いものではないため、やりたいことを明確にし、それに特化したモデルを選定する必要があります。
1台でアレもコレもと機能を求めると結局はなにもできないため、選定にはご注意ください。
もしこれから事業参入をご検討の場合は、事前に海洋調査のプロからコンサルティングを受けると無駄な買い物をせず、効率よく参入できると思います。
ROVを製造するメーカー比較一覧
ROVを製造するメーカーは数多くありますが、この記事では5社をご紹介します。
- キュー・アイ(Q・I)
- SAAB Seaeye(サーブ・シーアイ)
- QYSEA(キューワイシー)
- CHASING(チェイシング)
- Blue Robotics(ブルーロボティクス)