しかし、スカラロボットには製品ごとに特性傾向があり、特徴が異なっています。そのため、目的や現場に合わせた機械を選ぶことが重要です。
この記事では、一般的なスカラロボットの特徴と価格帯、構造の解説から、種類別のメリット・デメリット、選定基準、そして主要なメーカー一覧までを紹介しています。
導入検討前に情報を整理しておくことで、最適な機械選びが可能となるので、ぜひ最後までご一読ください。
目次
スカラロボットとは?特徴・仕組みと価格帯を紹介
スカラロボットは、英語名がSelective Compliance Assembly Robot Arm、頭文字を取るとSCARAとなることからスカラロボットと呼ばれている、産業用ロボットの一種です。
ここからは、スカラロボットの基本的な特徴・仕組みと価格帯について説明します。
基本的な特徴・仕組み
スカラロボットは水平方向の高速移動と上下方向の剛性に優れており、組み立て、搬送、ねじ締め、塗布など、精密な工程を自動化するのに適しています。本体は水平方向に動く3軸(位置決め)と垂直方向に動く1軸(押し込み動作など)の計4軸で成り立っており、構造がシンプルなため比較的低コストで導入できますが、3次元的な動作は苦手です。
以上からもわかる通り、スカラロボットは水平方向の動作に特化したロボットです。仕組みは、次のような一連の動きで動作します。
- 3軸の回転軸によって先端部分を水平方向に移動し、対象物の真上に高速移動させる
- 上下軸を用いて先端部分を対象物に真上からアプローチする
- 対象物を掴むなどの作業を行う
スカラロボットの値段帯
スカラロボットの値段は、種類や性能によって大きく異なりますが、一般的には数百万円から購入が可能です。例えば、価格帯を次の三区分に分けることが可能です。
スカラロボットの価格帯
低価格帯:約1,300,000円 – 3,900,000円タイプ:コンパクトタイプ、標準タイプ
価格の理由:基本的な機能や小規模な作業に適した設計であり、比較的安価な部品やシンプルな設計が採用されているため、この価格帯になります。
中価格帯:約3,900,000円 – 7,800,000円
タイプ:標準タイプ、特殊用途向けタイプ、高速・高精度タイプ
価格の理由:高い精度や特定の機能性を要求される用途に対応するため、より高度な技術や材料が必要で、それが価格に反映されます。
高価格帯:7,800,000円以上
タイプ:高速・高精度タイプ、高負荷タイプ、特殊用途向けモデル
価格の理由:最高の性能、複雑なカスタマイズ、特定の高度なアプリケーションに対応するために先進技術や特殊材料、緻密な設計が必要であり、それが高価格につながります。
ここまで、スカラロボットの基本的な特徴・仕組みと価格帯について説明しました。次の章では、スカラロボットの基本構造を解説します。
基本的な特徴と仕組みを押さえた上で構造を理解することで、種類別の特徴が理解しやすくなります。ぜひ続けてお読みください。
スカラロボットの基本構造を解説
ここからは、スカラロボットの基本的な構造を紹介します。スカラロボットは一般的に以下の要素から構成されています。
- ベース
- 回転軸
- 平行アーム
- リフトメカニズム
- エンドエフェクタ
それぞれの機能は以下のとおりです。
ベース
最も基礎となる部分で、ロボット全体の安定性に重要な役割を担います。動作中の振動や外力による影響を最小限に抑えるために、堅牢な材料で作られています。ベースの設計は、ロボットが正確かつ安定した動作を維持できるようにするため、重量配分や形状に細心の注意が払われています。
回転軸
ロボットアームの動きを支える重要な構成要素で、ベースに取り付けられています。この関節により、アームは水平方向に自由に回転し、所定の位置へ移動することができます。高精度なモーターやギアによって駆動するため、精密な制御が可能です。この部分の設計と性能が、ロボットの動作範囲と位置決めの精度に直接影響を与えるため、非常に重要な部分です。
平行アーム
スカラロボットの主要な動作部であり、一般に2本のアームが並列に配置されています。回転軸によって制御され、物体を精密にピックアンドプレースするための動きを実現します。軽量かつ剛性の高い材料で作られ、高速かつ正確な動作を可能にします。アームの長さや構造は、ロボットのリーチと作業範囲を決定する重要な要因です。
リフトメカニズム
アームの先端部分に位置し、垂直方向の動きを実現するための機構です。このメカニズムにより、物体を持ち上げたり、下げたりする動作を行うことができます。ピストンなどのさまざまな駆動方式が用いられ、作業の要件に応じた力と速度で精密な制御が可能です。リフトメカニズムの設計は、求められるペイロードや作業の精度に基づき決まります。
エンドエフェクタ
「手」とも言える部分で、具体的な作業を実行するための交換可能なツールやデバイスが取り付けられます。例えば、吸着パッド、チャックハンド、電動ドライバ、ディスペンサなどのユニットを付加できます。エンドエフェクタの選択と設計は、用途と要件に大きく依存し、作業の効率性と精度を大きく左右する部分です。
以上、スカラロボットの構造について解説しました。スカラロボットの基本構造はこれで押さえられましたが、この構造部分の変動によって、スカラロボットの種類が異なります。次の章では、その4種類を確認し、各メリットとデメリットを説明します。
各種製品の特徴は?4種類のスカラロボットのメリット・デメリット
ここからは、スカラロボットの種類とそれぞれのメリット、デメリットについて解説します。スカラロボットには、次の4種類の特性傾向に分けることができます。
高耐久タイプ
このタイプに分類されるスカラロボットは、重い部品の取り扱いが必要な場合に設計されたモデルで、強力なアームと耐久性により、高い負荷能力を持ちます。メリット
重量物の組み立てや搬送に適しており、強力なアームと高い耐久性を特徴とします。例えば、大型の自動車部品、金属製の工業用コンポーネント、あるいは建設資材など、重い物体を扱う必要がある製造プロセスで重宝されます。また、安定した動作と長期間にわたる信頼性を提供し、労働集約的なタスクの自動化により、作業者の安全を向上させるとともに、生産効率を大幅改善に寄与します。
デメリット
重量物を扱う能力に特化しているため、機械自体の大きさやコストが大きくなる傾向にあります。これは、大規模な製造施設や特定の作業環境でのみ適用可能な場合があるということです。また、高速で精密な作業を要求されるアプリケーションには必ずしも最適ではない場合があり、その適用範囲は限定されることがあります。
高速・高精度タイプ
高速で精密な作業が求められるアプリケーション向けに最適化されたモデルです。高速・高剛性・高精度で豊富なラインナップが存在します。メリット
特に繊細な電子部品の組み立てや、高度な精度が要求される検査作業に最適です。ゾーン制御機能で最適な加減速を自動設定できます。結果、製品の品質向上と生産効率の大幅な改善を実現します。繰り返し作業における一貫性と信頼性が極めて高く、製造プロセスの自動化における精度要求を満たすことが可能です。
デメリット
高度な性能を実現するための技術的要求により、コストは高くなる傾向にあります。例えば、導入コストの増大、特に初期投資に敏感な中小企業にとっては大きな障壁となる場合があります。さらに、これらのロボットは重量物の取り扱いや、広範囲をカバーする作業には最適化されておらず、適用範囲が限定される場合があります。
コンパクトタイプ
限られたスペースでの使用を目的とした小型のモデルです。なかには超小型スカラロボットも存在し、高剛性かつ高精度ながら手のひらサイズと低価格を実現しています。メリット
スペースが制限された環境や、小さな部品の取り扱いに最適であり、製造ラインの柔軟性と効率を大幅に向上します。また、低価格であるため、コストを抑えつつ製造プロセスの自動化を実現したい企業にとって魅力的な選択肢です。
デメリット
その小型設計により、作業範囲が限定され、負荷能力も低めです。大きな部品の取り扱いや、広範囲にわたる作業を必要とするアプリケーションには適していません。そのため、コンパクトタイプのスカラロボットは、特定のニーズを持つ特定の用途に最適化されていると言えます。
特殊用途向けタイプ
特殊用途向けタイプのスカラロボットは、特定の産業や用途に特化して設計されており、例えば食品産業向けには衛生的な設計のモデルがあります。メリット
特殊な環境や要件に合わせてカスタマイズされ、その作業条件下での性能が最適化されています。カスタマイズによって、従来のロボットでは対応が困難だったタスクを効率的に実行することが可能になります。例えば、スカラロボットが動作を開始するためには、あらかじめワークをセットする位置を整列・調整しておく必要がありますが、固定カメラもしくはスカラロボットの先端にカメラをカスタマイズし画像処理することにより、ワークの位置補正をすることも可能です。
デメリット
特定の用途に特化して設計されているため、その他の用途には柔軟に対応できないことがあります。また、特殊な要件に対応するための追加コストがかかり、全体的な導入コストが増加する可能性があります。
ここまで、各スカラロボットの特徴とメリット・デメリットについて説明してきました。次の章では、実際に数多くあるスカラロボットの中から、貴社に最適な機械を選ぶ際の基準を6つ解説します。選定基準を把握することが一番大切ですので、ぜひ続けてお読みください。
選定方法は?6つの比較基準|スカラロボットの選び方
ここからは、スカラロボットを選ぶ際の選定基準を解説します。機械の導入に際して、検討すべき事項は以下の6点です。
作業内容・要件定義
スカラロボットの導入を検討する際、まず最初に行うべきは、使用する具体的な作業内容やプロセスの明確化です。例えば、組み立て作業の場合、どのような部品をどの順番で組み立てる必要があるのか詳細に定義します。この段階では、作業の流れ、必要な作業速度、取り扱う物品の種類とサイズ、作業環境などを考慮することが重要です。
作業内容が明確になったら、次に必要な作業精度を特定します。精密な組み立てや微細な部品の搬送、品質検査など、高い精度を要求されるタスクでは、その精度を実現できるスカラロボットの選定が不可欠になるためです。
必要な精度には、位置決めの精度、繰り返し精度、速度と精度のバランスなどが含まれます。
総コスト
総所有コストの評価は、経済的に妥当かを判断するために不可欠です。初期投資と運用コストの両方を詳細に分析し、投資に見合ったリターンが得られるかどうかを慎重に評価することが重要です。初期投資を正確に評価するためには、導入に必要な全ての機材とサービスのコストを網羅的に考慮する必要があります。初期投資の中には、本体価格だけでなく、導入に伴う付帯設備やシステムの統合コスト、プログラミングおよびオペレータの研修費用など、多岐にわたります。
また、運用コストは、ロボットの稼働時間や使用条件によって大きく変動する可能性があるため、長期的な運用計画をもとに評価することが必要です。
運用コストには、エネルギー消費、定期的なメンテナンス費用、消耗品や交換部品のコスト、および必要に応じたソフトウェアアップデートやシステムのアップグレードコストが含まれます。
可搬重量
持ち上げる必要がある物体の重さを考慮し、適切な負荷能力を持つスカラロボットを選択することが重要です。可搬重量が変動すると、 ロボットが対応できるワークの種類や数が変わります。例えば、可搬重量が大きいほど、重いワークや多数のワークを同時に搬送できるようになります。
また、可搬重量の大きさで、ロボットの本体の価格や消費電力も変わります。可搬重量が大きいほど、基本的には本体の価格や消費電力も高くなります。
この他にも、可搬重量はロボットの動作速度や精度に影響を与えます。可搬重量が大きいほど、動作速度や精度が低下する可能性があります。
リーチ・作業範囲
必要な作業範囲をカバーできるリーチ(アームの長さ)を持つロボットを選ぶことが重要です。作業範囲が変動すると、ロボットが対応できるワークのサイズや形状が変わります。移動範囲が大きいほど、大きくて複雑なワークに対応できるようになります。
一方で、作業範囲が大きいほど、本体のサイズや重量が大きくなり、動作の速度や精度に影響を与えます。また、設置場所のスペースが必要になり、必要な安全対策も増えます。
設置場所
可搬重量などの変動によって、想定される設置場所が変わります。以下は可搬重量を基準にした時の想定設置場所です。設置スペースに制約がある場合は、参考にしてください。可搬重量と設置場所
- 可搬重量:1~5kg デスクトップやベンチトップなどの小さなスペースに適している
- 可搬重量:5~10kg 床置きや天吊りなど、そこまで広くないスペースに比較的柔軟に設置可能
- 可搬重量:10~20kg 床置きや天吊りなどで、大きめのスペースに適している
速度・繰り返し精度
生産効率を考慮して、作業を実行するのに必要なスピードを満たすロボットを選定するのが重要です。加えて、製品の品質を保証するため、所要の繰り返し精度を持っているかも確認すると良いです。速度が変動すると、ロボットが対応できるワークのサイクルタイムが変わります。速度が速いほど、ワークの搬送や加工を短時間で行えます。
また、速度が速いほど、本体の価格や消費電力も高くなります。
速度はロボットの動作精度や安全性にも繋がっています。移動速度が速いほど、動作精度や安全性が低下する傾向にあるからです。繰り返し精度(停止精度)を見て、誤差を必ず確認しましょう。
以上、スカラロボットを選定する際の基準6点でした。次の章では、スカラロボットを製造するメーカーを一覧で紹介します。続けて読むと、貴社にとって適切なメーカーがわかりますので、是非ご一読ください。
スカラロボットを製造している主要メーカー5社
ここからは、スカラロボットを製造している主要企業を紹介します。貴社の導入条件を整理し、比較基準の6点を確認した後は、実際にスカラロボットを製造している企業を探しましょう。
高耐久タイプ | 高速・高精度タイプ | コンパクトタイプ | 特殊用途向けタイプ | |
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エプソン | – | ◎ | – | – |
ヤマハ発動機 | – | ◎ | – | ◎ |
IAI | – | ◎ | ◎ | – |
デンソーウェーブ | – | ◎ | ◎ | – |
ファナック | ◎ | – | – | ◎ |
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エプソン
エプソンは、精密加工技術に基づく高品質なプリントソリューションで知られる世界的な企業ですが、産業用ロボット分野、特にスカラロボット技術の先駆者として高い評価を受けています。エプソンが扱っているスカラロボットのタイプは、主に高精度・高速タイプです。これらのロボットは、極めて繊細な動作と高速性を兼ね備えており、製造業での精密な組み立て作業や、高度な品質検査プロセスに最適なソリューションを提供します。
エプソンのスカラロボットの強みは、独自の効率的な設計と、優れた繰り返し精度にあります。これにより、限られたスペース内でも最大限の生産性を実現し、長期間にわたる安定した運用を保証します。
納入実績のある業界は、電子部品製造、自動車部品組み立て、医療機器製造など多岐にわたります。特に、高精度が求められる作業環境において、エプソンのスカラロボットはその価値を最大限に発揮しています。
ヤマハ発動機
ヤマハ発動機は、産業用ロボットの分野で高い技術力と実績を誇り、スカラロボットのほかにもカートリッジロボットやシングルアクシスロボットなど、多種多様なロボットを提供しています。ヤマハ発動機では、上記分類の中では、高速・高精度タイプ、特殊用途向けタイプのスカラロボットをを扱っています。
ヤマハ発動機のスカラロボットの強みは、高速・高剛性・高精度で豊富なラインナップを誇る点である。優れた技術や機能によって、メンテナンス性や耐久性、信頼性も高いです。これは、30年以上の歴史と実績が、ヤマハ発動機のスカラロボットのバックボーンとなっているからです。
ヤマハ発動機のスカラロボットは、ねじ締めやハンダ付け、搬送、積載、検査工程などの自動化に貢献しています。また、クリーンルーム仕様のスカラロボットは、半導体の製造工場や食品・医療機器・化粧品の製造現場でも活躍しています。
IAI
IAIは、1976年に設立された産業用ロボットの専門メーカーです。電動アクチュエーターとスカラロボットを主力製品としており、世界各国に販売・サービス拠点を持っています。IAIでは、高速・高精度タイプ、コンパクトタイプのスカラロボットを取り扱っています。
強みは、トップレベルの高速・高可搬・高精度を実現している点です。また、バッテリーレスアブソリュートエンコーダーを標準搭載しており、バッテリー交換作業が不要になり、メンテナンスの工数削減に貢献しています。
食品、医療、化粧品、電子・電気、自動車など、幅広い業界にスカラロボットを納入しています。
デンソーウェーブ
デンソーウェーブは、バーコード、QRコードやRFIDなどの自動認識機器、産業用ロボット(FA機器)などを開発・製造するリーディングカンパニーです。デンソーグループの一員として、自動車産業をはじめとするさまざまな分野で革新的な技術を提供しています。デンソーウェーブでは、高速・高精度タイプ、コンパクトタイプのスカラロボットを取り扱っています。
自動車産業の厳しい品質基準に基づいて、スカラロボットを開発・製造しているため、高い品質と性能を保証している点がデンソーウェーブの強みです。また、先進的な技術とソリューションを提供しており、例えば、COBOTTAという人と協働して作業できるスカラロボットもあります。
デンソーウェーブは、自動車、電子・電気、食品、医薬品など、幅広い業界にスカラロボットを納入した実績がります。
ファナック
ファナックは、工作機械用CNC(コンピュータ数値制御)システムやロボット、ロボマシンなどを提供する世界的なメーカーです。特に、ロボット分野では、その幅広い製品ラインナップと革新的な技術で業界をリードしています。ファナックが提供するスカラロボットは、高耐久タイプ、特殊用途向けタイプに分類されます。高い負荷能力と優れた耐久性を備えており、重い部品の搬送や組み立て作業に最適です。また、食品産業向けに衛生基準を満たした洗浄可能なモデルも扱っています。
ファナックの強みは、その信頼性の高さと幅広い産業への適用性にあります。また、高度な制御技術と豊富な機能により、作業の自動化と効率化を実現します。さらに、ファナックは顧客サポートと技術サービスにも力を入れており、導入から運用、メンテナンスまで全面的にサポートしています。
納入実績のある業界には、自動車産業、電子機器製造、食品加工、薬品製造などが挙げられます。