海水を真水に変えるための重要なプロセスである海水淡水化において、最適な装置を選ぶことは、効率的で持続可能な水資源管理の鍵となります。この記事では、海中ろ過装置の5つの主要な種類と特徴、メリットと比較方法について詳しく解説し、それぞれの強みや適用シーンを紹介します。
目次
5種類の海中ろ過装置
海水淡水化とは、海水を処理して淡水(真水)を作り出すこと、およびその設備を指します。海水淡水化の基本は海水からの脱塩処理であり、方式としては多段フラッシュ法・逆浸透法が主であることが知られています。
海中ろ過装置の主な種類には、以下の5つの種類が挙げられます。
- オートストレーナー
- ディスクろ過装置
- 砂ろ過装置
- 膜ろ過装置
- フィルトマット
オートストレーナー
オートストレーナーは、ストレーナーに自動洗浄機能を付与したろ過装置です。原水に不純物が多く、ストレーナーでは頻繁な洗浄が必要な場合や、ストレーナーの目が粗すぎて後段の水処理設備が目詰まりし、生産設備に不具合が出るなどのトラブルが生じるケースなど、より高精度なろ過が必要な場合に用いられます。オートストレーナーの特徴は以下の通りです。
- ろ過精度が求められる場合に適している
- 設置費や運用費を抑えたい場合に適している
この装置は、ろ過を継続しながら自動洗浄することが可能で、固形異物が多く頻繁なフィルター洗浄が必要な場合や、維持管理の要員を確保することが困難な状況で活躍します。また、仕様条件によっては連続運転が可能で、汎用ストレーナーよりもメンテナンスインターバルを長くすることが可能です。
ディスクろ過装置
ディスクろ過装置は、ディスク型のフィルターを複数枚並列して配置するろ過装置です。海水など腐食性の強い原水に対応できるため、冷却水のろ過や海水のろ過に適しています。この装置は、ディスクの両面をろ過面積として利用し、水面積に対して大きなろ過面積を確保できることが特徴です。また、ディスク表面に蓄積した懸濁物質を直接吸い取り、返流水処理へ送水する方式を採用しており、効率的な洗浄が可能です。
ディスクろ過装置の強みは以下の通りです。
- 設置面積に対してろ過面積が大きく省スペース
- 重力式ろ過と負荷に応じた効率的かつ間欠的な洗浄により省エネルギー
- 鋼製水槽やRC水槽での新設だけでなく、既設ろ過池の躯体の活用も可能
これにより、腐食性の強い原水にも対応できるディスクろ過装置は、省エネルギーで効率的なろ過を実現します。
砂ろ過装置
砂ろ過装置は、砂をろ材として使用するろ過装置の一種です。水中の浮遊物や濁りを除去するために用いられ、主に緩速ろ過と急速ろ過の2種類の方式があります。緩速ろ過は、ろ過砂の表層に形成される生物膜の作用を利用してろ過する方式で、化学薬品を使用しないことが特徴です。一方、急速ろ過は、前処理で薬剤を使って水中の微細な粒子を凝集させ、砂の層に通してろ過する方式で、大量のろ過水を得ることが可能です。
砂ろ過装置の強みは以下の通りです。
- 海水中の浮遊物や濁りを除去するための凝集剤を用いることで、ろ過精度を向上できる
- 逆洗を行うことで、ろ材の洗浄と再利用が可能
ろ過精度が高くなくてもよい場合や、設置費や運用費を抑えたい場合には、砂ろ過装置が有効です。
膜ろ過装置
膜ろ過装置は、微細な穴のあいた膜を使用して行うろ過装置です。ザルの原理と同じく、膜の穴より小さな濁度や細菌類を効率よく除去することができます。膜ろ過には、精密ろ過(MF)膜、限外ろ過(UF)膜、ナノろ過(NF)膜、逆浸透(RO)膜など、穴のサイズによって複数の種類があり、除去したい物質や目的・用途に合わせて膜の種類を選定します。
膜ろ過装置の強みは以下の通りです。
- ろ過精度が高く、細菌やウイルスなどの微生物も除去できる
- 膜面積が大きく、大量のろ過水を得ることができる
- 膜面に付着した汚れを逆洗で除去することで、膜の寿命を延ばすことができる
他の海中ろ過装置と比較すると、膜ろ過装置はろ過精度が高く、海水の淡水化や高度な水質処理に適しています。
フィルトマット
フィルトマットは、高性能ろ過フィルター「フィルトマット」を活用した自動洗浄ろ過装置です。2種類の方式があり、スポット吸引洗浄タイプでは、縦横方向の目開きに大差のない畳織式のスクリーンにより、安定したろ過を実現しています。スレッド式ろ過装置では、カセットと呼ばれるろ材を設置し、原水を内部に圧送してろ過を行います。この方式では、微粒子をカセットの表面および内部で捕捉し、その後、高圧ジェット水による洗浄工程を経て確実に除去します。フィルトマットの強みは以下の通りです。
- ろ過範囲に優れ、2~3,000ミクロンをカバー
- 適用範囲も幅広く、工業用水の処理から半導体工場の純水製造ライン、鉄鋼、製紙、自動車、化学、食品など多様なシーンで利用
- 強力な洗浄機能を有し、高精度ろ過の領域でも目詰まりしにくい
フィルトマットは、ろ過精度が高く、薬品を使わずに高精度なろ過が可能であることが最大のメリットです。砂ろ過やディスクろ過ではろ過精度が不足する場合や、膜ろ過ではオーバースペックな場合に適しています。
海中ろ過装置のメリット・デメリット
海中ろ過装置には、メリットとデメリットの両方があります。このセクションでは、海中ろ過装置のメリットとデメリットを両方ご紹介します。
メリット
海中ろ過装置の主なメリットには、以下の3つのポイントが挙げられます。- 海水中の塩分を高い精度で除去可能
- 生産性が高い
- メンテナンスが容易
海水中の塩分を高い精度で除去可能
海中ろ過装置は、海水中の塩分を高精度で除去し、淡水化や高度な水質処理を実現する装置です。この技術により、海水を飲料水や産業用水として利用できるようになります。また、淡水資源が限られた地域や、環境に優しい水資源の確保を目指すプロジェクトにおいても重要な役割を果たします。高性能なろ過膜や逆浸透技術を使用し、安定した運転が可能で、海洋環境への影響を最小限に抑えながら効率的な水質改善を提供します。
生産性が高い
海中ろ過装置は、大きな膜面積を持つことで、一度に大量の海水を処理し、高い生産性を発揮します。この設計により、短時間で多量のろ過水を生成できるため、淡水供給のニーズが高い場所や大規模な産業用途にも適しています。また、高効率な運転が可能で、エネルギー消費を抑えながらも安定した水質を確保できるため、運用コストの削減にも寄与します。
メンテナンスが容易
海中ろ過装置は、膜面に付着する汚れを逆洗によって効果的に除去できるため、メンテナンスが容易です。この逆洗機能により、膜の目詰まりを防ぎ、装置の稼働を長期間安定させることが可能です。結果として、膜の寿命が延び、交換頻度が減少するため、運用コストの低減と保守作業の手間軽減が期待できます。また、メンテナンスの頻度が少なく、装置の稼働率を高く保つことができます。
デメリット
一方で、海中ろ過装置のデメリットとしては、以下のポイントが挙げられます。- 設備費が高い
- 定期的な膜の交換や修理が必要
設備費が高い
海中ろ過装置のデメリットとして、運用に高い設備費用と前処理のコストがかかる点が挙げられます。膜を通過させるためには高圧ポンプや配管が必要で、その設備費が高額になります。また、海水中の微生物や析出物による膜の目詰まりを防ぐため、前処理が不可欠であり、これには専用の前処理装置や薬品が必要です。これらのコストが全体の運用費に大きく影響し、初期投資やランニングコストが高くなる点がデメリットとなります。
定期的な膜の交換や修理が必要
海中ろ過装置のデメリットとして、膜の摩耗や破損により、ろ過性能が低下することがあります。これにより、定期的な膜の交換や修理が必要となり、装置の稼働率に影響を与える可能性があります。また、交換や修理には専門的な技術とコストが伴い、メンテナンス作業が頻繁になる場合もあります。これにより、運用コストの増加や運転の一時停止が必要となることがデメリットとして挙げられます。
4つの比較基準 | 海中ろ過装置の選び方
海中ろ過装置には、以下の4つのポイントを抑える必要があります。
- 水質
- 塩分濃度
- ろ過精度
- ろ過水の量
水質
濁度(水中に含まれる微粒子の量を表す指標)が変動すると、ろ過装置の前処理や洗浄の方法や頻度を変える必要がある。また、濁度が高いと、ろ過装置の膜に付着する汚れが増えるため、ろ過性能が低下したり、膜の寿命が短くなったりする。水質が良い場合には機能・性能を大きく気にする必要はありませんが、特に濁度が高い海域で使用する海中ろ過装置を選ぶ際には、以下の性能を考慮することが重要です。
- 高性能な前処理システム:膜への負担を軽減し、ろ過性能を安定させる
- 逆洗機能付きの装置:定期的に膜の洗浄を行い、膜の寿命を延ばすことが可能
- 耐久性のある膜素材:ろ過性能の低下を防ぎ、交換頻度を削減
- 自動洗浄システム:運転効率を維持しながら、濁度の変動に対応可能
- モニタリングシステム::必要に応じて前処理や膜の洗浄を最適化
塩分濃度
塩分濃度が変動すると、ろ過装置の種類やろ過精度を選択する必要があります。また、塩分濃度が高いと、ろ過装置の膜に付着するスケールが増えるため、ろ過性能が低下したり、膜の寿命が短くなったりします。塩分濃度が高い場所で使用する場合には、以下の性能を持った海中ろ過装置を選ぶ必要があります。
- スケール抑制技術が搭載された装置:スケールの蓄積を防ぎ、膜の寿命を延ばせる
- 高耐久性の膜:腐食や膜の劣化を防ぐ
- 頻繁なメンテナンスが可能な装置:膜の汚れを効果的に除去し、ろ過性能を維持可能
一方で、塩分濃度が低い場所では、以下の性能を持った海中ろ過装置を選ぶ必要があります。
- 低圧運転が可能な装置:エネルギー消費を抑えつつ安定した運転が可能
- シンプルな前処理システム:設備コストやメンテナンスコストを抑えられる
- 可変ろ過精度対応装置:運用コストを最適化し、必要な水質を確保
ろ過精度
ろ過精度が変動すると、ろ過装置の種類や膜の材質や形状、ろ過方式などを選択する必要があります。また、ろ過精度が高いと、ろ過装置の膜に付着する汚れが増えるため、ろ過性能が低下したり、膜の寿命が短くなったりします。ろ過精度が高い時のメリットは、以下のようなものがあります。
- ろ過水の水質が高く、海水の淡水化や高度な水質処理に最適
- 細菌やウイルスなどの微生物も除去可能
一方で、ろ過精度が低い時のメリットは、以下のようなものがあります。
- 設備費や運用費が低い
- 性能や寿命が向上
- 前処理や洗浄のコストが低い
ろ過水の量
ろ過水の量が変動すると、ろ過装置の規模や能力に影響します。ろ過水の量が多い場合、ろ過装置の膜面積やポンプの圧力を大きくする必要があります。また、ろ過水の量が変動する場合、ろ過装置の制御や調整が必要になります。ろ過水の量が多い時のメリットは、以下のようなものがあります。
- 生産性が高く、大量の水を処理可能
- 水需要が高い場合や水不足の際に有利
一方で、ろ過水の量が少ない時のメリットは、以下のようなものがあります。
- 設備費や運用費が低い
- 膜の性能や寿命が向上
- 前処理や洗浄のコストが低い
海中ろ過装置を製造する主なメーカー5社
海中ろ過装置を製造する主なメーカーには、以下の5社が挙げられます。
- 東レ
- アルテック
- 理水化学
- 水処理エース
- Waqua