電子顕微鏡
半導体などの電子機器や、ナノテクノロジーの発展により、電子顕微鏡の高倍率、高解像度の機能が必要になる場面が増えています。一方、電子顕微鏡の活用方法や活用シーンについて詳しく知っている人は少ないでしょう。
顕微鏡の中でも高性能な電子顕微鏡は、オーバースペックになる恐れがあるため、正しい選定が大切です。
この記事では2種類の電子顕微鏡や、それぞれ適した利用シーンについて解説します。電子顕微鏡の導入を検討している方はぜひ最後まで読み参考にしてください。
2種類の電子顕微鏡
電子顕微鏡は電子ビームの特性などにより、以下2種類に分けられます。
- 透過型電子顕微鏡(TEM)
- 走査型電子顕微鏡(SEM)
それぞれの顕微鏡が観察を得意とする対象物や、活躍する場面について解説します。
透過型電子顕微鏡(TEM)
透過型電子顕微鏡(TEM: Transmission Electron Microscope)は、非常に高い解像度を持つ顕微鏡です。TEMは電子ビームを試料に通し、その透過した電子を検出することで画像を生成します。試料は非常に薄くスライスされていて、電子が通過できる厚さが求められます。
透過型電子顕微鏡の強みは以下のとおりです。
- 他の顕微鏡技術よりも遥かに高い解像度を実現し、原子レベルの詳細まで観察が可能
- 電子線回折を利用して、結晶材料の内部構造を詳細に分析できる
- 観察対象の化学的組成を分析するために、エネルギー分散型X線分析(EDX)などの技術を併用できる
透過型電子顕微鏡は特に以下の場面で活躍します。
- 材料科学:新しい材料の開発や既存材料の改良において、原子レベルでの構造を明確にすることが必要な場合
- 生物学:ウイルスの構造解析や細胞の微細構造の観察など、生物学的サンプルの詳細な解析を行う際に用いられる
- 半導体業界:半導体デバイスの製造過程での欠陥分析や、デバイスの微細構造の検査などに利用される
走査型電子顕微鏡(SEM)
走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)は、試料に電子ビームを照射し、その反射または二次電子を検出することで表面の高解像度の画像を生成します。この方法では、試料の表面を詳細に走査し、3次元的なトップグラフィーを可視化することが可能です。
走査型電子顕微鏡の強みは以下のとおりです。
- 非常に高い拡大率で試料の表面構造を鮮明に捉えることができる
- 非常に硬い材料から生物学的な柔らかいサンプルまで、広い範囲の試料に対応可能
- EDX(エネルギー分散型X線分析)などの技術を組み合わせることで、サンプルの元素組成を分析できる
走査型電子顕微鏡は特に以下の場面で活躍します。
- 材料科学:合金、セラミックス、ポリマーなどの微細構造を調査し、材料の物理的特性との関連を理解するために使用される
- 生物医学研究:細胞の表面構造や組織の断面の詳細を調べる際に利用される
- 品質管理と故障分析:電子部品や微小デバイスの製造過程での欠陥や故障の原因を特定するために使用される
電子顕微鏡を活用するメリット
電子顕微鏡を活用するメリットは以下の3点です。
- 極めて高い解像度
- 高い拡大率
- 詳細な材料解析能力
それぞれ解説します。
極めて高い解像度
電子顕微鏡は電子ビームを使用するため非常に解像度が高いです。
電子の波長は可視光よりもはるかに短いため、数ナノメーター(nm)単位、時には原子レベル(0.1 nm以下)の詳細まで観察可能です。これにより、微細な構造や原子配列まで詳しく観察することが可能となり、物質の基本的な特性を理解するのに役立ちます。
このメリットは以下の場面で活躍するでしょう。
- ナノテクノロジーの研究と開発
- 生物分子の構造生物学
高い拡大率
電子顕微鏡は拡大率が非常に高く、数百万倍の拡大率を実現します。この極めて高い拡大率により、原子や分子レベルの微細な構造を詳細に観察できるため、科学的な理解を大きく深めることが可能です。
光学顕微鏡が使用する可視光の波長に限界があるため、最大でも約2000倍程度の拡大率に制限されます。
このメリットは以下の場面で活躍するでしょう。
- 材料科学における微細構造分析
- 半導体業界における欠陥分析
詳細な材料解析能力
電子顕微鏡は主にエネルギー分散型X線分析(EDX)、電子線後方散乱回折(EBSD)、およびその他の分光学的手法を使用するため、材料解析能力が高いです。
これらの技術は、電子顕微鏡に組み込まれることで、サンプルの化学的組成や結晶構造、さらには電子と物質の相互作用に関する情報を詳細に提供します。これにより、物質の微細な構造だけでなく、その性質や反応のメカニズムも理解可能です。
このメリットは以下の場面で活躍するでしょう。
- 新素材の開発
- 故障分析と品質保証
電子顕微鏡を活用するデメリット
電子顕微鏡を活用する際、以下のデメリットも考慮が必要です。
- 高コスト
- サンプルの準備が複雑
- 操作と解析が専門的
デメリットを軽減する方法も紹介するので、電子顕微鏡を導入する際は参考にしてください。
高コスト
電子顕微鏡は購入価格だけでなく運用、および維持管理コストが必要で、高額になりやすいです。一台の電子顕微鏡が数千万円から数億円することがあります。さらに、高度な技術を使用するための特別な設備投資が必要です。
例えば特定の室温や湿度を保つための設備、振動を避けるための特殊な基盤などが必要です。また、消耗品、電源のコスト、専門技術者による操作や維持管理も定期的に必要であり、これらが運用コストをさらに増加させます。
このデメリットは以下の方法で軽減可能です。
- 大学や研究機関のような電子顕微鏡の共同利用施設を利用することで、高額な設備投資を行わずに電子顕微鏡を使用できる
- 政府や民間の研究助成プログラムを利用して、電子顕微鏡の購入や運用資金を支援してもらう
- レンタルやリースサービスを利用することで、長期にわたる高額な資金投資を避けつつ、必要な期間だけ設備を利用可能
- 中古品の購入。新品よりもコストを大幅に削減できる場合がある
(中古装置は、適切に再調整されていれば、新品と同等の性能を持つことが多く、コストパフォーマンスに優れている)
サンプルの準備が複雑
電子顕微鏡では、観察するサンプルを特別な方法で準備する必要があります。このプロセスに含まれる作業は以下の通りです。
- サンプルを非常に薄く切断する
- 真空状態での観察に適した加工を行う
- (場合によっては)特定の物質でコーティングする
特に、電子顕微鏡の真空環境では水分が蒸発しやすいため、生物学的サンプルは事前に適切に固定化し、脱水処理する必要があります。
また、非導電性のサンプルは電子ビームによるチャージングを防ぐために、金属などでコーティングすることが一般的です。これらのプロセスは専門的な技術と機材を要求し、時間もコストもかかります。
このデメリットは以下の方法で軽減可能です。
- 自動化されたサンプル準備装置の利用:サンプル準備の一貫性と効率が向上し、手間が大幅に削減可能
- 専門トレーニングとプロトコルの標準化:新しい研究者や技術者が必要なスキルを迅速に習得でき、間違いも少なくなる
- 共同利用施設でのサンプル準備:トレーニングされたスタッフがサンプル準備を行うため、個々の研究グループでは高度な設備や専門知識が不要
- 新技術の導入:より少ない準備で済む新しい観察技術やサンプル準備技術を利用する
操作と解析が専門的
電子顕微鏡は特殊な状態のサンプルを扱うため、操作と解析にも専門知識が求められます。たとえば、走査型電子顕微鏡はサンプルが動いたり、ぼやけるなどの事象が起こります。これは電子線による荷電が原因とされており、外的な要素が要因です。
観察時のイレギュラーな事象は、電子顕微鏡について正しい知識を持っている、あるいは経験がある場合は対処できます。一方、知識も経験も持たない方では対処が難しいでしょう。電子顕微鏡は使いこなせれば、光学顕微鏡では観察が難しいサンプルにも対応できますが、操作と解析が難しい欠点があります。
このデメリットは以下の方法で軽減可能です。
- 専門機関への依頼:大学や研究機関など電子顕微鏡を活用することで、専門知識の習得が不要になる
- 見識者の誘致:経験と知識を誘致することで教育コストの削減と解析ミスのリスクを低減できる
4つの比較基準 | 電子顕微鏡の選び方
電子顕微鏡の選定をする際は、以下4つのポイントを比較して決めると良いです。
- 用途に適切な倍率の顕微鏡を選ぶ
- 解像度
- サンプルの種類
- 価格
それぞれのポイントを解説します。
用途に適切な倍率の顕微鏡を選ぶ
電子顕微鏡を選定する際、使用目的に応じて適切な倍率の顕微鏡を選ぶことは非常に重要です。倍率は、観察したいサンプルの詳細度と直接関連しています。
そのため、適切な倍率の選定は、効率的で正確な観察を保証し、研究や品質管理の精度を高めます。倍率が適切でないと、サンプルの重要な特徴が見逃されたり、解析に無関係な詳細に時間を費やすことになりかねません。
また、特定の応用に最適な電子顕微鏡を選ぶことで、研究開発のコスト効率と効果を最大化できます。
電子顕微鏡の種類とそれぞれの平均的な倍率、適切な用途例は以下の通りです。
平均的な倍率 | 適切な用途例 | |
透過型電子顕微鏡(TEM) | 約50倍から数百万倍 | 原子レベルの材料科学研究 ナノテクノロジー開発 |
走査型電子顕微鏡(SEM) | 約10倍から数十万倍 | 表面形態の観察 故障分析 |
用途に適切な倍率の顕微鏡を選ぶことで、電子顕微鏡を導入する目的を最低限のコストで達成しましょう。
解像度
電子顕微鏡を選ぶ際は、必要な解像度を理解しておく必要があります。
解像度とは顕微鏡が識別できる最小の詳細度を指し、通常はナノメーター(nm)単位で表されます。解像度は顕微鏡の能力を示す重要な指標であり、電子レンズの品質、電子源の種類、操作条件などによって決定されます。
電子顕微鏡の種類と一般的な解像度は以下の通りです。
- 透過型電子顕微鏡(TEM):0.1 nmから1 nmの範囲
- 走査型電子顕微鏡(SEM):1 nmから10 nmの範囲
適切な解像度を持つ顕微鏡の選定は、観察したいサンプルの性質や要求されるデータの精度に基づいて行う必要があります。
解像度が選定に重要とされる要因は以下の通りです。
- 観察目的の達成研究や分析の目的に最適なデータを得るには、対象とするサンプルのサイズや構造に適した解像度の顕微鏡を使用する必要がある
- より詳細な情報を得られるため、研究結果の正確性と再現性が向上し、科学的発見や技術開発の質が高まる
- 高い解像度の顕微鏡は高価なため、必要以上の解像度を備えた顕微鏡を選択すると、コストパフォーマンスの悪化に繋がる
解像度も倍率と同様に、目的を達成できることを前提として、最もコストを下げられる選択をしましょう。
サンプルの種類
電子顕微鏡を選定する際には、サンプルの種類を考慮することも重要です。
サンプルの物理的および化学的性質(硬度、導電性、熱安定性など)は、どの顕微鏡技術が適しているかを決定する上で重要な要素です。例えば、非常に薄いサンプルは透過型電子顕微鏡(TEM)に適しており、表面の微細構造を観察する必要がある場合は走査型電子顕微鏡(SEM)が適しています。
サンプルの種類が選定に重要とされる要因は以下の通りです。
- 不適切な顕微鏡を使用すると、サンプルが適切に観察されず、データの解釈が誤って行われる可能性がある
- 高エネルギーの電子ビームを使用するため、サンプルに応じて適切な顕微鏡を選ぶことで、サンプルの損傷や変質を避けられる
電子顕微鏡の種類ごとの適したサンプル例は以下の通りです。
透過型電子顕微鏡(TEM)
- バイオロジカルセクション:ウイルスや細菌などの微生物、または細胞の超薄切片
- ナノ粒子:化学合成によるナノ粒子や、材料科学でのナノスケールの粒子
走査型電子顕微鏡(SEM)
- 半導体デバイス:微細加工された回路の品質管理や故障分析
- 材料表面の分析:金属、セラミックス、ポリマーなどの表面構造の観察
価格
電子顕微鏡の価格はその種類、機能性、解像度、および製造業者によって大きく異なります。一般的に、透過型電子顕微鏡(TEM)は高価であり、特に高解像度モデルはさらにコストが高くなります。走査型電子顕微鏡(SEM)も幅広い価格帯が存在しますが、通常TEMよりは安価です。
価格を考慮することで、購入後の維持費用を含めた総コストが予算内で収まるかどうかを判断し、財務的に持続可能な選択をすることが可能になります。
価格が選定に重要とされる要因は以下の通りです。
- 決められた予算があるため、必要とする機能を持ちながらもコストパフォーマンスが最も高い顕微鏡を選ぶことが重要
- 電子顕微鏡は初期投資だけでなく、維持管理にも高額なコストがかかる傾向がある
- 研究目的や必要とする機能に見合った機器を選ぶことで、投資した資金に対して最大のリターンが得られる
企業や研究機関では、限られた予算の中で最大のパフォーマンスを発揮することが求められるでしょう。
電子顕微鏡を製造するおすすめのメーカー4社
電子顕微鏡を製造するおすすめのメーカーは以下の4社です。
- 日立ハイテク
- 日本電子
- 松定プレシジョン
- キーエンス
それぞれ特徴を解説します。
日立ハイテク
日立ハイテクは1947年設立のヘルスケアソリューション事業やナノテクノロジーソリューション事業に取り組む企業です。
同社の電子顕微鏡の特徴は以下のとおりです。
- 操作性と拡張性を両立
- 数々の操作もオート化も実現し高性能を効率的に活用できる
- 大型から小型まで幅広く対応
高性能な機器を簡単な操作で使いたい方に適しています。
日本電子
日本電子は1949年設立の理化学計測機器や半導体関連機器、産業機器などの製造や販売を行う企業です。
同社の電子顕微鏡の特徴は以下のとおりです。
- 透過電子顕微鏡 (TEM)と走査電子顕微鏡 (SEM)をどちらも開発、販売する
- 汎用型からハイエンドモデルまで幅広いラインナップ
- アタッチメントも豊富で様々な場面に対応
さまざまな種類の研究機器の導入を検討している方に適しています。
松定プレシジョン
松定プレシジョンは1978年設立の電源装置やエレクトロニクス機器、電子顕微鏡の企画、製造、販売を行う企業です。
同社の電子顕微鏡の特徴は以下のとおりです。
- 汎用型の使い勝手と、ハイエンドレベルの性能を両立
- 使いやすくより高精細な画像取得が可能
- 独自開発した高性能対物レンズにより測定試料に合わせた観察方法が選択できる
予算に限りがある中で、できる限りの高性能な機器を求めている方に適しています。
キーエンス
キーエンスは1975年設立のセンサや測定器、解析機器などを取り扱う企業です。
同社の電子顕微鏡の特徴は以下のとおりです。
- 「レンズを傾けても」「対象物を回転させても」画面よりズレない
- キーエンス独自の技術が可能にしたカラーかつ高精細の画像での観察
- 一般的な走査電子顕微鏡 (SEM)よりも深い深度を実現
高性能な走査電子顕微鏡 (SEM)を求めている方に適しています。
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