レーザースキャナ
レーザースキャナは、建設・土木分野はもちろん、遺跡や文化財の保護、さらには製造業の品質管理など、多岐にわたる現場で活用される革新的な3次元計測技術です。
本記事では、地上型レーザースキャナ(TLS)を中心にして、レーザースキャナの基礎知識から、用途やメリット・デメリット、さらに失敗しない選び方のポイントやおすすめのレーザースキャナメーカーまでを解説します。
あまり詳しくない方ははもちろん、既に所有しているレーザースキャナの買い替えを検討している方にも役立つ情報が満載です。ぜひ最後まで読んで、最適なレーザースキャナを選定するヒントを見つけてください。
目次
レーザースキャナとは? 原理や活用例などを解説
レーザースキャナとは、対象物にレーザービームを照射し、反射して戻ってきた光の飛行時間や強度などを計測することで、物体の形状や位置を3次元データとして取得できる計測機器です。
3Dモデルを短時間で高精度に取得できることから、建設や土木現場での測量はもちろん、遺跡の保存、設備のメンテナンス、さらにはエンターテインメント分野でのVRやARコンテンツ制作など、多様な現場で活用されています。
たとえば従来であれば、現地に人員を大量に投入してメジャーやトータルステーションで計測しなければならなかった複雑な地形や建造物でも、レーザースキャナならば短時間で膨大な3次元情報を取得可能です。そのため工期短縮や労務負担の軽減に大きく寄与し、災害現場の早期復旧や歴史的建造物の保存にも役立ちます。
ここまでレーザースキャナの概要や活用例を見てきました。次に具体的な種類について確認してみましょう。
大規模測定を支えるレーザースキャナ:種類ごとの特徴とメリットとデメリット
レーザースキャナには、使用環境や測定対象に応じてさまざまな種類がありますが、ここでは比較的使用されることの多い、代表的な2種類を取り上げ、それぞれの特徴やメリット、デメリットを解説します。
また、導入価格が高く通常の使用は想定されていないものの、現存するレーザースキャナもあるため、それにあてはまる3種類も簡単に紹介します。
地上型(TLS)
地上に据え付けて使用するタイプのレーザースキャナで、三脚や車台などに固定して計測するケースが一般的です。大規模な土木測量や建築物の外観・内観スキャンなど、広範囲を高精度に計測できます。
地上型のレーザースキャナが現状で一番使用されることが多く、また需要の多いタイプです。地上型レーザースキャナを使用することのメリットとデメリットは以下の通りです。
移動型(SLAM)
移動型あるいはバックパック型レーザースキャナは、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)とも呼ばれる、自己位置推定と周囲の環境の地図作成を同時に行う技術を使用するレーザースキャナです。動きながら広範囲のスキャンを行うため、特に広範囲なエリアやアクセスが難しい場所での使用に適しています。
高い精度で環境を捉えることができるため、自律移動ロボットのナビゲーション、建築物やインフラの検査、無人車両やドローンでの地図作成などの用途で使用されます。
以上の2種類が、近年民間企業で使用されることの多いレーザースキャナです。
ここから先は、導入金額が億単位と高額になり、あまり導入の検討対象にならないレーザースキャナを簡単に紹介します。ただし、車載型レーザー/モバイルマッピングシステムなどは安いと5,000 万円くらいで導入できるため、場合によっては民間企業によっても使用されることがあります。
車載型レーザー/モバイルマッピングシステム(MMS)
車両にレーザースキャナを搭載し、移動しながら周囲の地形や建造物をスキャンするシステム(Mobile Mapping System)は、導入金額が安くても5,000万円ほどで、道路の路面状況調査や市街地の3Dマッピングなどに使用されることがあります。
この技術のメリットには、広範囲の地形や街並みを短時間で取得できる点、走行中でも高精度なデータが得られる点、また道路工事やインフラ管理などで効率的に活用できる点です。
UAVレーザー(ULS)
UAV(Unmanned Aerial Vehicle)、いわゆるドローンに搭載して上空から計測を行うレーザースキャナは、上空からの視点を活かして、森林や山間部の地形、災害現場の状況などを効率的に把握することができます。
UAVのメリットは、広範囲の地形を一度に計測できること、アクセスが困難な場所でも計測が容易であること、そして短時間で大規模なエリアをカバーできる点です。
航空レーザー(ALS)
有人航空機やヘリコプターに搭載して計測を行う方法(Airborne Laser Scanning)は、ULSよりもさらに広範囲の測量に適しており、地図作成や大規模なインフラ点検などに利用されます。
非常に広範囲を一度に計測できる点、地形の起伏が激しいエリアでも対応できる点、そして最先端の航空測量技術と組み合わせて活用しやすい点がメリットとして挙げられます。
このように、レーザースキャナは用途や測定範囲に応じて最適な種類が異なります。次の章では、レーザースキャナ一般にあてはまるメリット・デメリットをほかの似た技術と比較しながら深掘りしていきましょう。
ほかのスキャナと比べたレーザースキャナのメリット・デメリット
レーザースキャナの中でも一番使用されることが多く、導入の検討対象になるのは地上型レーザースキャナ(TLS)です。ここから先は、地上型レーザースキャナを中心にして説明をしていきます。
一般的に言えるレーザースキャナのメリット・デメリット
レーザースキャナには数多くの魅力がありますが、同時に注意すべきデメリットも存在します。ここでは代表的なメリットとデメリットを挙げてみましょう。
移動型(SLAM)と比べたときの地上型(TLS)のメリット・デメリット
地上型レーザースキャナ(TLS)は、静止した位置から高精度な計測を行う技術です。移動型レーザースキャナ(SLAM)と比較すると、移動型は広範囲をカバーできる一方で、精度が低くなる傾向があります。移動しながらスキャンを行うSLAMは、動的な環境に強く、広いエリアを迅速に測量できるため、大規模な現場で有効です。
これに対して、地上型は高精度な測定が可能ですが、測定範囲が狭いため、特に詳細な測定が求められる場面で適しています。
移動型は動的な環境での使用に適しており、移動しながらリアルタイムに計測できる利点があります。しかし、精度が求められる場合には地上型に劣ります。詳しくは次の記事をご覧ください。

LiDARとレーザースキャナの違いは?
LiDAR(Light Detection and Ranging)もレーザー光を用いて物体との距離を計測する技術であり、レーザースキャナはLiDARの一種と捉えられることが多いです。
しかし、LiDARはパルス状のレーザー光を用い、大規模な地形測量や環境計測するのに適しているのに対して、レーザースキャナはレーザー光を用い、通常3Dスキャナで計測するよりも規模の大きい建築物などを精度高く測定するのに適しているという違いが存在します。
LiDARセンサーについては、次の記事で詳しく説明しているので、関心のある方はご一読ください。

こうしたメリットとデメリットを踏まえて導入を検討すれば、活用現場とコストとの折り合いがつけやすくなります。次の章では実際に測量で使う場合の手順について紹介します。
測量方法の仕組みは? レーザースキャナの使用手順
レーザースキャナによる測量は、「機材の設置」「設定(スキャン範囲や解像度の設定)」「スキャン実施」「取得データの後処理」「3Dモデルや図面の作成」という大まかな流れで進みます。
まずはレーザースキャナの設置と校正が重要です。地上型の場合は三脚を安定させ、必要に応じて基準点を設定します。航空レーザーやUAVの場合は飛行ルートや高度、気象条件などを事前に確認し、安全に飛行できるよう準備を行います。
次に、スキャンソフトウェアでスキャン範囲や解像度の設定を行い、実際に計測を開始します。取得した点群データは膨大なので、後処理としてノイズ除去や座標変換、位置合わせ(レジストレーション)などを行い、最終的な3Dモデルや図面に仕上げます。
レーザースキャナを使った測量の正確さを維持するためには、定期的な機器のキャリブレーションや、環境要因(天候・温度・振動など)への配慮が欠かせません。
以上、レーザースキャナの測量手順をご紹介しました。次は、用途に合った機種を選ぶためのポイントを見ていきましょう。
導入する前に確認したいカタログの読み方ガイド|レーザースキャナの選び方
地上型レーザースキャナには多くの機種や仕様が存在するため、一度購入したことのある方でも、実はカタログの読み方をよく知らないなどして、どの製品を選べばよいか悩む方も少なくありません。ここでは特にカタログの読み方を切り口に、主に3つのポイントを取り上げ、それぞれの重要性と検討事項を解説します。
カタログで見るべき基本指標
カタログには様々な数値や情報が乗っていますが、地上型レーザースキャナを選ぶ際にまずは見なければならないのは以下の項目です。
- 測定距離(最大レンジ)
- 測定精度
- 視野角(FOV: Field of View)
- 測定速度(ポイント取得レート)
スキャナーが測定できる最大距離を示す指標です。例えば、「最大測定距離120m」と記載されていれば、120メートル先の対象物でも有効な点群が取得できることを意味します。レンジが長いほど広範囲を測定できますが、通常は本体が大きく、価格も高くなります。
計測の誤差範囲を示します。例えば「精度±2mm」のように表記され、数値が小さいほど高精度で測定が可能です。ただし、カタログに記載された精度は理想的な条件下での数値であり、実際の使用環境では精度が変動することがあるため、用途に合わせて適切な精度の機種を選ぶことが大切です。
スキャナーが一度に計測できる角度範囲を示します。例えば「水平360°×鉛直300°」と記載されている場合、360度全周囲と300度の高さ範囲を一度に計測できるということです。視野角が広ければ少ない設置回数で広範囲を測定でき、効率的に作業が進められます。狭い場合は、複数回スキャンが必要となります。
スキャナーが1秒間に取得する点の数を示します。例えば「100万点/秒」と記載されている場合、速度が速いほど短時間で多くの点を取得でき、広範囲を迅速に測定できます。ただし、高速機種はデータ処理に時間がかかることがあるため、現場の条件に合わせた機種選びが重要です。
後ほど詳しく説明しますが、カタログ記載値は理想的な条件下で得られた数値であるため、実際には環境要因や対象物特性によって異なる可能性がある点には注意が必要です。
カタログ上の記載と実測が異なる可能性のある数値
レーザースキャナーのカタログには理想的な条件での数値が記載されており、以下のように実際の運用時に誤解を招く可能性がある項目がいくつかあるため、注意しましょう。
- 最大測定距離
- 測定精度
- 測定速度
- 解像度
- 視野角
通常、高反射率の物体で測定された値であり、暗い色の対象物では測定距離が縮むことがあります。
距離が長くなると精度が悪化するため、その影響を考慮する必要があります。
高速スキャンではデータ品質が低下する場合があるため、スキャンモードや点密度に応じて適切な速度を選ぶことが重要です。
距離が遠くなると点群が粗くなり、解像度が高い設定でも距離の影響を受けることがあります。
視野角が狭い機種では、真上や真下に死角ができるため、計測範囲を考慮して機種を選ぶことが求められます。
使い方や用途に合わせたスペックを選ぶコツ
上記の基本的な知識を押さえたうえで、地上型レーザースキャナーを選ぶ際重要になるのは、用途に合わせたスペック選定です。
まずは自分の計測目的を明確にしましょう。例えば、屋外の大規模計測が目的であれば「長距離レンジ」や「耐候性」が重要です。一方、室内計測や建築BIM用途では「高精度」や「コンパクトさ」が重視されます。文化財の測定など細かいディテールが求められる場合は「高解像度」と「低ノイズ性能」が必要です。
複数機種を比較する際のポイントとして、同じ基準でスペックを並べて比較することが挙げられます。レンジ、精度、視野角、速度などをリスト化し、同条件下での比較を行いましょう。また、実際の現場での使いやすさや操作性、データ管理、ソフトとの互換性も確認しましょう。特にデータ転送方法やストレージ容量は大事な要素です。
用途に付随して、携行性や設置性も考慮に入れるべきです。高性能な機種ほど大型化しますが、現場の移動や高所設置を考えると軽量でコンパクトな機種が有利です。メーカーの信頼性やサポート体制も重要になってきます。最終的には、実機デモやサンプルデータを使って、実際のデータ品質や操作感を比較することが、失敗を防ぐための有効な手段です。
上記のポイントを踏まえて、自社の用途に最適なレーザースキャナを選べば、計測効率と品質を高い次元で両立できるでしょう。続いて、おすすめのメーカーを比較していきます。
編集部おすすめの代表的なレーザースキャナのメーカー比較
さまざまな機種が存在するレーザースキャナですが、メーカーによって得意分野や強みが異なります。ここでは信頼度の高い国内外メーカーを5社取り上げ、それぞれの特徴を紹介します。
Leica / ライカ
メーカー名 | Leica / ライカ |
設立年 | 1869年(エルンスト・ライツ社として) |
本拠地 | ドイツ・ヴェッツラー |
概要 | 光学機器および測量機器の製造メーカー |
ライカは、1869年にドイツ・ヴェッツラ―に設立された光学機器および測量機器の製造メーカーで、特に写真、測量、デジタルスキャン分野での革新的技術に強みを持っています。
ライカはLeica Absolute Scanner LASというレーザースキャナを製造しています。このLeica Absolute Scanner LASは、他のメーカーと比較して高精度な点群データ取得と低ノイズ性能により、詳細かつ正確なスキャンが可能であることや、リアルタイムフィールド登録やHDR画像統合による効率的なデータ処理と視覚的記録が可能であることなどの強みがあります。
具体的な導入業界としては、建設業界、インフラ整備、建築、製造などがあげられます。
FARO Technologies / ファロー
メーカー名 | FARO Technologies / ファロー |
設立年 | 1981年 |
本拠地 | アメリカ・フロリダ州 |
概要 | 3D測定およびイメージング技術を提供するメーカー |
ファローは、1981年にアメリカ・フロリダ州に設立された、3D測定およびイメージング技術を提供するメーカーです。特に高い市場シェアとブランド評判に強みを持っています。
ファローは、FARO Focus Premiumというレーザースキャナを製造しています。このFARO Focus Premiumは、他のメーカーと比較してユーザーフレンドリーな操作性と直感的なインターフェースにより初心者でも簡単に使用できることや、高速スキャン能力(最大97Hz)と効率的なデータ取得によって現場での作業時間を短縮できるといった特徴があります。
建設業界、製造業、公共安全などが具体的な導入業界として挙げられます。
Zoller + Fröhlich / ゾラー・フリューリッヒ
メーカー名 | Zoller + Fröhlich / ゾラー・フリューリッヒ |
設立年 | 1963年 |
本拠地 | ドイツ・ヴァンゲン |
概要 | 高精度なレーザースキャナおよび非接触測定技術のメーカー |
ゾラー・フリューリッヒは、1963年にドイツ・ヴァンケンに設立された、高精度なレーザースキャナおよび非接触測定技術のメーカーです。同社は特に高速かつ高精度な測定技術において強みを持っています。
代表的な製品にZ+F IMAGER 5016というレーザースキャナを製造しています。このZ+F IMAGER 5016は、他のメーカーと比較して「ブルーワークフロー」機能により、現場でスキャンデータをリアルタイムで登録・確認・編集できることや、360m以上の長距離測定能力とHDRカメラ内蔵による高品質なデータ取得が可能であることといった特徴があります。
ゾラ―・フリューリッヒのレーザースキャナは、産業分野、法医学・安全分野、建築、歴史保存分野などで実際に導入されてきました。
トプコン / TOPCON
メーカー名 | トプコン / TOPCON |
設立年 | 1932年 |
本拠地 | 東京都板橋区 |
概要 | 光学機器メーカー |
トプコンは1932年に設立された、東京都板橋区に本拠地を置く光学機器メーカーです。創業以来90年以上にわたって培われた精密光学技術とオプトメカトロニクス技術を強みとしています。
レーザースキャナとして代表的なのはGLS-2000/2200シリーズです。 測量機メーカーならではの器械点・後視点法対応機能を備え、他社レーザースキャナと比較してもトータルステーションのような測量手法に馴染みやすいのが魅力です。
建設現場での3次元計測はもちろん、構造物調査や災害調査、遺跡調査など幅広い分野で活用されており、歴史的建造物のデータ管理などでも力を発揮しています。
リーグルジャパン/ RIEGL JAPAN
メーカー名 | リーグルジャパン / RIEGL JAPAN |
設立年 | 1997年 |
本拠地 | 東京都中野区 |
概要 | 2D・3Dレーザースキャナの日本総代理店 |
リーグルジャパンは1997年に設立され、東京都中野区に拠点を置く、オーストリアRIEGL社との合弁会社です。30年以上にわたるレーザーセンサーの研究開発実績を強みに、日本国内で2D・3Dレーザースキャナの販売やサポートを行っています。
取り扱う代表的なレーザースキャナとしてVZ-400iシリーズがあり、圧倒的な測距能力と、高速・高精度・高密度の計測スペックを兼ね備えている点が、他メーカー製品と比較した際の大きなアドバンテージです。
航空測量や土木測量をはじめ、鉄鋼メーカーや自動車メーカー、大学の研究機関、文化財のデジタルアーカイブなど多彩な分野で導入実績があります。
以上、編集部がおすすめする代表的なレーザースキャナメーカーについて紹介しました。メーカーごとに強みや得意分野が異なりますので、ぜひ自社の用途や予算に合った製品を検討しましょう。
この記事を読んで、レーザースキャナが気になった方は、以下のボタンよりお気軽にお問い合わせください。
レーザースキャナ関連記事
レーザースキャナ関連記事はまだありません。