ディップコーター(ディップコーティング装置)

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複雑な形状にも均一な薄膜を形成できるディップコーター。設備の構造がシンプルゆえに、ほかの成膜手段と比較すれば導入コストも低いという特徴があります。

今後、医療業界や半導体業界だけではなく、さまざまな分野でディップコーターの需要が伸びていくでしょう。

そこで、本記事ではディップコーターの原理やメリットなどを紹介します。さらに、ディップコーターを専門で取り扱うおすすめメーカーについて触れていきます。

とりあえず話を聞きながら考えたい方やすぐにメーカーへ問い合わせをしたい方は、以下のボタンからお問い合わせください。担当者におつなぎいたします。

目次

ディップコーター(ディップコーティング装置)とは?その他のコーティング方式との違いも解説

ディップコーター(ディップコーティング装置)とは

ディップコーター(ディップコーティング装置)とは、加工対象に塗料や薬剤などのコート剤を塗工する方法のうち、ワークをコート剤に浸漬(どぶ漬け)後、引き上げてワークにコート剤をコーティングする「ディップ方式」を使用する際の専用の設備です。

複雑なワーク全体にコーティングができることが特徴で、スプレー式・ロール式・スピン式などの塗布方法と比較して、塗布効率が高く、ランニングコストに優れています。

以下で、「スプレー方式」「ロール方式」「スピン方式」との違いを表でまとめます。

スプレー方式 ロール方式 スピン方式 ディップ方式
薄膜性 ×
片面塗布
コート剤の消費量 × ×
方法 ワークにスプレーでコート剤を吹き付ける ローラーでワークにコート剤を塗りつける ワークを回転させて、遠心力でコート剤を塗り広げる ワークをコート剤に漬け、引き上げて塗布する

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ディップコーターの原理・仕組み・膜厚の制御方法を解説

ディップコーターの原理・仕組み・制御方法

ディップコーターでの成膜の原理は単純です。ワークを液中に漬け、引き上げることでワークに成膜します。膜厚の制御は、下記の3つに大きく依存します。

膜厚の制御

  • 引き上げ速度
  • コート剤の粘度
  • コート剤の密度

コート剤の選定は、先方の要求品質・製品仕様によって決まってしまうことがほとんどです。ある程度の制御は可能ですが、コート剤のみで膜厚を制御するには限界があります。

そのため、ディップコーターではワークの引き上げ速度によって膜厚を制御するのが一般的です。ワークの引き上げ速度が遅いほど薄く仕上がります。

しかし、引き上げ速度とコート剤の粘度には密接な関係があるうえ、室温などの外的因子でも膜厚に影響を与えてしまいます。一概に決められるわけではないことは覚えておきましょう。

狙いの薄膜を形成するためのディップコーティングの流れ・作業工程を紹介

ディップコーターの作業工程

ディップコーターでワークを無造作にコート剤に浸漬させても、高品質な薄膜は形成されません。狙いの薄膜を形成するには、しかるべき手順を踏む必要があります。ディップコーティングの作業工程は下記です。

前処理・洗浄

コート剤がワークに密着するように、ワークのクリーニングをおこないます。コーティングの品質を左右する重要な工程です。

洗浄方法は大きく分けて、ドライプロセスとウェットプロセスの2種類に分けられます。

表面処理方法

  • ドライプロセス:UVオゾン・プラズマなどでワークの表面状態を改善する方法
  • ウェットプロセス:洗浄液を用いて、超音波洗浄・シャワー洗浄などをおこなう方法

ディップコート

ディップコーティングのメインとなる工程で、ワークをコート剤に浸漬し、取り出してコーティングします。コート剤として選定されるのは、下記が多いようです。

コート剤の種類

  • ハードコート剤
  • 反射防止膜剤
  • 防曇膜コート剤

乾燥・硬化

ディップコーティング直後のコート剤は未乾燥の状態で、ワークを乾燥させる工程が必要です。

コート剤固化のためには、液体成分を揮発させたり、化学反応を起こしたりしなくてはいけません。乾燥方法は自然乾燥・熱乾・UV硬化などがあり、コート剤の特性によって決まります。

ディップコーターの使用用途や活用業界

ディップコーターの使用用途や活用業界

均一な薄膜を形成できるディップコーターは、主に下記の業界で活用されています。

医療分野

生体適合性コーティングや、ドラッグデリバリーシステムの製造にディップコーティングが活用されています。

具体例では、カテーテルなどの細い管の内面をコーティングするケースが挙げられるでしょう。専用のディップコーターで加圧吸引して内面塗布をおこなえば、新たな機能を持たせることができます。

電子材料

電子機器の高機能にともない、ゴミ・湿度・腐食などから基盤を守る必要があり、ディップコーターが使用されています。

また、集積回路(LSI)の配線やデバイス、薄膜トランジスタへの応用も期待されています。

東京工業大学の研究報告によれば、ディップコーターを用いて有機トランジスタ用結晶膜成膜の高速化に成功したという事例もあります。

ディップコーターの均一な膜厚形成原理を応用し、従来方式よりも約2,000倍の作業速度を実現したようです。

自動車工業

自動車部品には防錆(ぼうせい:金属の錆を防ぐ)・防腐(ぼうふ:金属の腐食を防ぐ)や、装飾目的でディップコーティングがおこなわれています。

とくに、ボディの強度や外観を守るために、防錆対策は重要です。従来はスプレー方式が採用されていましたが、現在では車体全体をコート剤に浸漬させるディップ方式が望ましいとされています。

車体のすみずみまで処理でき、防錆性能が伸ばせるディップコーターの需要が高まっているといわれています。

4種類にディップコーターを分けて各種類の特徴と価格を確認

ディップコーターの種類と特徴

ディップコーターはシンプルな原理を用いていますが、用途に応じてさまざまな種類が存在します。ここでは、下記の設備の特徴と価格を紹介します。

実験用ディップコーター

最低限の機能を持ったディップコーターで導入価格が安く、卓上でも扱えるコンパクトさが特徴です。

技術力向上を目指すための検証テストや、小ロットのテスト品作成に重宝します。販売価格は50~100万円程度が一般的です。

超低速ディップコーター

引き上げ速度を超低速(1秒間に1nm~60mm程度)にし、ナノ単位の薄膜形成を可能にしたディップコーターです。

設備によっては可動軸数が増えたものや、角度を調整できるものがあり、多彩なコーティングができます。150~200万円程度で販売されています。

オルタネイトディップコーター

オルタネイトとは「代わる代わる」という意味があります。オルタネイトディップコーターは複数の液槽を持ち、任意の順番で浸漬処理をおこなえます。

交互吸着などの異なったコート剤を用いた塗布が可能です。複雑な機械構造になってくるため、販売価格は上がり200万円~程度で取引されていることが多いでしょう。

生産用ディップコーター

大量生産向けのディップコーターです。販売メーカーによっては、生産モデルとセミ量産モデルなどが販売されています。

前処理・洗浄、コーティング、乾燥までを一台に集約しています。装置サイズが大きくなり販売価格も高くなりますが、大量生産をおこなう場合にはコストメリットがあるでしょう。

ディップコーターのメリットを紹介

ディップコーターのメリット

数多くあるコーティングの中でも、ディップコーティングには多くのメリットがあります。ここでは、ディップコーターのメリットについて触れていきます。

均一な薄膜

ほかの塗布方式と比較して、ディップ方式はワークすべてを浸漬させます。

複雑な形状でも細部までコート剤が塗布できるため、ワーク全体に均一な薄膜を形成可能です。

両面を同時塗布

平面のワークの場合、スプレー方式やスピン方式では複数回処理しなければ両面の処理はできません。しかし、ディップコーターを使用すれば、片面だけではなく両面も同時にコート剤を塗布可能です。

形状を問わない

ディップコーターは、ワークをコート剤に浸漬させるだけでコーティングができます。形状問わず、均一な薄膜が形成可能です。

ただし、ディップコーターの弱点として、ワークをつかむ必要があります。チャックした部分はコーティングできないため、注意してください。

塗布液のロスが少ない

スプレー式やスピン式のようにコート剤を無駄にしないことも、ディップコーターの強みです。コート剤の歩留りに大きな影響を与えるため、ランニングコスト低減に寄与するでしょう。

シンプルなメンテナンス性

ディップコーターは複雑な部品を使用していないため、メンテナンスが容易なのも特徴といえるでしょう。

可動軸はZ軸(高さ方向)にくわえて、多くてもX軸(横軸)とΘ軸(回転軸)の3軸です。設備の保全がしやすく、長期的な運用に適した成膜機だといえます。

導入に失敗しないためのディップコーターの選び方を解説

ディップコーターの選び方

ディップコーターの原理は単純だからこそ、選定ポイントはしっかりおさえておきたいものです。ディップコーターを選ぶ際に目安にする下記の基準を紹介します。

ワーク重量・サイズ

ディップコーターはワークをつかみ、吊り下げて浸漬させます。対応するワーク最大重量をオーバーしてしまえば、ワークが落下してしまうかもしれません。

また、取り扱うサイズによってはディップコーターに取り付けられない恐れがあります。取り扱うワークの重量・サイズを確認したうえで、販売メーカーに相談してください。

ストローク

Z軸(高さ方向)のストロークは、ワークの大きさを決める重要な要素です。ストロークが大きいほど、高さのあるワークをすべて浸漬できます。

作業効率の観点からも、一回で処理できるようなディップコーターを選定するといいでしょう。

引き上げ速度

膜厚を決める要素が引き上げ速度です。設備によって引き上げ速度に幅があり、対応範囲は各メーカーのカタログに記載されています。

塗布する部品にどの程度の膜厚や機能が必要なのかを考慮したうえで、選定してください。

ディップコーターを製造しているおすすめのメーカー3社を紹介

ディップコーターのおすすめのメーカー

ディップコーターを取り扱うメーカーには、自社で研究開発から設備設計・製造を一貫しておこなうメーカーが多数あります。

独自の深いノウハウがあるため、疑問点や不明点があれば導入前にきちんと聞いておきましょう。

ここでは、下記のディップコーターを専門で取り扱うメーカー3つを紹介します。

株式会社 SDI

「SDI」は成膜装置製造・受託コート・熱処理をおこなうメーカーです。装置製造では主にディップコーターを専門で取り扱っています。

SDIの特徴は、研究・開発用から量産用モデルまで幅広くディップコーターを取り扱っていることです。

また、装置のレンタルもおこなっているため、導入前にはレンタル機で機能を確認するといいでしょう。

株式会社あすみ技研

ディップコーターを中心にして研究・開発、製造・販売などを専門でおこなっているメーカーです。

官公庁や国内の産業技術センター、大学、生産現場などに多くのディップコーターを販売しています。

「あすみ技研」の強みは、自社で研究開発から設備設計・製造まで、一貫してディップコーター製造に携わっていることです。ディップコーティングへの深いノウハウが期待できます。

主に研究開発用のディップコーターを手掛けていますが、カスタマイズ装置の受注もおこなっています。ニーズに合わせた装置作製ができることも強みといえるでしょう。

株式会社エコートプレシジョン

ディップコーターや洗浄装置・搬送装置などの製造・販売をおこなっているメーカーが「エコートプレシジョン」です。実験用・生産用などさまざまなディップコーターを取り扱っています。

初めてディップコーターを導入するメーカーや、複雑形状へのコーティングに悩んでいるメーカーへの導入実績があります。

まとめ|低コストで薄く均一なコーティングを実現しよう

医療分野や半導体などの業界では、表面コートを用いて製品に新たな機能を付与する動きが活発です。

とくに、ディップコーターの特徴を活かせば、複雑な形状なものにも均一に薄膜を形成できます。新たなビジネス展開が期待できるでしょう。

さらに、ディップコーターは塗装効率も高い方法です。コート剤の運用さえ考えられていれば、低コストで高機能なコーティングができるでしょう。

また、ディップコーター製造・販売メーカーでは、従来装置をカスタマイズできるところも多数あります。自社のビジョンに合った販売メーカーを探してください。