調剤ロボット


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近年、薬局・病院の人手不足と安全性要求の高まりを背景に、調剤工程へロボット技術を組み込む動きが加速しています。

本記事では調剤ロボットに関心を寄せる製造業・医療機器関係のご担当者様に向け、基礎概念から最新導入事例、普及課題、おすすめのメーカーまでを体系的に整理しました。

調剤ロボットの全体像が把握できるような、役に立つ情報を網羅していますので、導入を検討中の方や情報収集を始めたばかりの方もぜひご一読ください。

目次

調剤ロボットとは? 特徴や活用例など基本的な情報を解説

調剤ロボットとは

調剤ロボットは、薬剤のピッキング・分包・監査・払い出しなど、従来薬剤師が手作業で行ってきた工程を自動化するロボットの総称です。バーコード/2Dコード、画像認識、重量センサー、アルゴリズム制御、AIなどを組み合わせてヒューマンエラーを減らし、処方完了までのリードタイム短縮が可能です。

世界市場は2024年時点で約2.6億米ドル規模、自動調剤機市場まで広げると、40~60億米ドル規模という推計もあります。

日本国内でも基幹システムと連動した院内・保険薬局で導入が進み、在庫最適化や電子処方箋プラットフォームとの接続によるリアルタイム在庫共有が普及していく見込みです。

調剤ロボットの種類を調剤工程ごとに分けてメリットとデメリットを紹介

調剤ロボットの種類とメリット・デメリット

調剤ロボットは果たす機能や担う工程によって分類できます。以下では、調剤ワークフロー上の主要な自動化機能と代表的なシステムを工程順に整理します。

自動ピッキング(入出庫)

薬袋・PTP箱などを大量保管し、処方データに応じて8~12秒で必要箱を取りそろえる入出庫ロボットです。代表格のBD「Rowa™ Vmax」は世界60か国で1万4,000台超の稼働実績を持ち、Vピッキングヘッドが14箱同時搬出を実現します。

国内ではトーショーが「Rowa」を、メディカルユアーズロボティクスが「RIEDL Phasys」をローカライズ提供するなどラインアップが多様化し、箱取り違えミスをほぼゼロにした薬局も報告されています。

ロボットが棚出しを担うことで薬剤師は最終チェックに集中できる一方、装置レイアウト変更・初期投資がボトルネックになりやすく、建屋耐荷重や空調経路の再設計が導入準備の肝となります。

自動分包(錠剤・カプセル)

錠剤やカプセルを服用時点ごとに一包化し、日時・内容を印字する分包機ロボットです。トーショー「Ai-1920win」は最大50包/分、192種の薬剤カセットを収納でき、分包過程で重量監査や写真鑑査を自動挿入して過誤を防ぎます。

手作業と比べ、夜間・長期処方でも品質を一定に保てる半面、カセット未登録薬は人が補填する必要が残り、導入初期はカセット構成の最適化に時間を要します。

自動分包(散薬)

粉薬の秤量・混合・分包を全自動で行う装置で、1960年代に最初の商用機が誕生した調剤ロボットの草分けです。湯山製作所「DimeRoⅡ」やタカゾノ「Crestage-Pro」などが、湿度影響を抑えながら処方0.5 g単位で±5%以内の計量精度を保証します。

粉体飛散や秤量むらの課題を機械構造で抑えるため、導入後は保守契約による定期点検と空調設定の最適化が鍵となります。

自動監査(鑑査)

画像認識やバーコード照合で調剤済み薬剤を検証するシステム・ロボットです。トーショー「C-Correct II」はPTP錠、散薬、点眼液まで識別し、毎月アップデートされる薬剤マスターで新薬にもすばやく対応します。

人の目視に比べ客観性と再現性が高まり、ヒヤリハットが激減したケースが報告される一方、高解像度カメラの校正と画像保存容量の確保は運用中に見落としがちな項目です。

ラベリング(薬袋印刷)

処方データを受信して薬袋・ラベルを自動印刷・貼付する機器です。錠剤分包紙への自動印字に加え、軟膏容器や水剤ボトル用ラベルをまとめて出力するモデルも登場し、手書きミスを回避できます。導入効果は大きいものの、印字耐久性やインクリボンの交換サイクルを見込んだストック管理が不可欠です。

自動払出し(交付)

調剤完了薬を患者または病棟へ自動払い出すロボットです。PHC社の注射薬払出システムは患者別のトレーに最大700施用/時以上を払い出すことができます。

外来向けには非対面受け渡しを支援するピックアップロッカーが普及し始め、24 時間好きな時間に処方薬を持ち帰れる仕組みが実証されています。

非接触化で感染対策と待合混雑緩和を両立できる一方、オンライン服薬指導と連動した本人確認プロセスが運用課題です。

ここまで、工程別に調剤ロボットを紹介しました。次の章では、調剤ロボットの普及率について紹介します。今後、人員削減もかねてこうしたロボットの現場導入拡大は増えていく見込みなので、概要を簡単に把握すると、その波に乗り遅れないでしょう。

普及率はどれくらいなのか|調剤ロボットの現状

調剤ロボットの普及率

厚生労働省や業界団体の調査によると、薬局全体では分包機・薬袋プリンターが7~9割の導入率に達し、散薬分包機・錠剤分包機は8割に上ります(2020年9月時点)。一方、ピッキングや払い出しまで含めた“フルオート”薬局は依然として少数派で、ハイスペック機への更新需要が今後の伸びしろとしてあります。

国内市場規模の推移と導入率

病院調査では自動調剤機(分包機・監査装置等)導入率が9割に達し、地方部でも普及が進んでいます。薬局では中小規模店舗でロボット化が遅れ気味ですが、大手チェーンは2023年までに100店舗単位で自動入庫払出装置を導入するなど、規模の経済を活かした集中投資が進行中です。

    普及を後押しする要因と考えられる事項

  • バーコード(GS1)標準化と電子処方箋解禁に伴うトレーサビリティ要求の高まり
  • ロボット価格の下落とものづくり補助金などの補助金による支援
  • 人手不足・長時間労働是正を目的とした診療報酬での対人業務評価強化
  • 国産化による保守サポート短縮(例:RIEDL Phasys国内生産開始)

普及拡大の課題と今後の見通し

導入時のネックは①装置スペースと床荷重、②初期費用と保守コスト、③スタッフ教育です。中小薬局では保険点数だけで回収しにくいとの声が多く、モジュール単位で段階導入できる製品が選ばれる傾向にあります。

今後は、2026~2027年診療報酬改定で対物業務の評価がさらに縮小し、対人業務の加算が強調される公算が高いことから、「棚出し~監査」をロボット化し薬剤師を服薬フォローにシフトさせる流れが加速すると見込まれます。

GS1バーコードの利用やFHIR準拠の在庫APIが標準化されれば、ロボット間連携と院外受け渡しのトレーサビリティが一層容易になります。また、クラウド型SaaSで小規模薬局も低コスト参入できる環境が整うでしょう。

ここまで、調剤ロボットの普及率について紹介しました。次の章では、調剤ロボットを導入する際に押さえておきたい視点についていくつか紹介します。

トラブルを回避するために最初に検討すべき視点|医療ロボットの選び方

調剤ロボットの選び方

ここでは、調剤ロボットの導入検討時に注目すべき観点を紹介します。各項目はそれぞれ異なる状況において重要度が増すため、導入シーンに応じて検討することで、導入した後のトラブル回避を実現できます。

剤形・包装のどの工程をロボットが代替できるかチェック

錠剤・散剤・注射剤といった多様な剤形なのか、バラ・ブリスター・PTPといった包装なのか、どの工程を調剤ロボットが自動ハンドリングできるかをまずは検討しましょう。

自社の処方箋に現れる剤形比率や、年間で採用する新薬・後発薬の包装バリエーションが変動要因となり、この要件を満たすかどうかが決まります。

もし対応外の薬剤が発生すると人手での分包や混在管理が避けられず工程が分断され、誤薬や取り違えといったリスクが多剤併用処方や季節変動で剤形が頻繁に変わる現場ほど高まります。

反対に、多くの剤形・包装を網羅できるロボットを導入すれば生産性と稼働率が向上し、スタッフは安心して業務に専念できる環境になるでしょう。導入の目的を明確にしていくことが大事です。

バーコード/RFIDでロット・期限まで追跡するトレーサビリティ機能を重視

個剤レベルでバーコードやRFIDをスキャンしてロット番号と有効期限まで自動記録できるトレーサビリティ機能を備えているかどうかが大切です。医薬品医療機器法の規定やGDP/GMP監査要求、さらに社内の品質マネジメント基準といった要因がこの機能の必要性を左右します。

この機能が不足していると、法的・社会的リスクが高まります。たとえば、リコール発生時に患者情報と該当ロットを突合できず回収が遅延し、高リスク薬を扱う現場では行政指導・業務改善命令やブランド失墜のリスクが一気に高まる可能性もあります。

一方で調剤ロボットがロットと期限を即時追跡できれば、リコール情報の入力から対象患者の特定までを数分で完結できるため、信頼損失を低減し、医療機関の信用を守れるでしょう。

陰圧&HEPA封じ込め設計で作業者曝露を防ぐ

陰圧キャビネットとHEPAフィルタで粉塵やエアロゾルを封じ込め、さらにUV滅菌や自動洗浄を組み込んだ封じ込める設計を調剤ロボットが採用しているかを確認することが欠かせません。

取り扱う薬剤の毒性分類や作業室の換気基準、そして労働安全衛生法で定められる許容濃度といった要因が、どの程度の封じ込め性能を必要とするかを決定づけます。

この選定を怠ると、抗がん薬や粉末抗菌薬の微粒子が無菌調剤室で作業するスタッフに曝露し、健康被害や職業性疾病の発生リスクが一気に高まり、同一エリアで大量分包を行う場面では安全管理が破綻しかねません。

しかし適切に検討することで、作業者の生涯曝露量を基準値以下に抑えながら安全文化を維持できる見込みが高まります。

ここまで、調剤ロボットを選ぶ際に念頭に置いておくとよいことを説明しました。調剤は人々の健康に関わる行為なので、以上を押さえておくことは重要です。次の章では、調剤ロボットを製造・販売する主要会社について紹介します。

調剤ロボットの導入を検討するなら知っておきたい主要おすすめメーカーを紹介

調剤ロボットのおすすめメーカー

ここでは、数ある調剤ロボットメーカーの中から、導入実績や技術力、業界での信頼性などをもとに厳選した会社をご紹介します。それぞれの会社が提供するロボットの特徴や導入事例を比較しながら、自社に最適な選択を検討してみてください。

気になるメーカーや製品があり、話を聞いてみたいという方は、以下のボタンよりお問い合わせください。

※JET-Globalの問い合わせフォームに遷移します。
※一部メーカーとは提携がない場合がありますが、ユーザー様に最適なご案内ができるよう努めています。

トーショー / TOSHO

メーカー名 トーショー / TOSHO
設立年 1971年
本拠地 東京都大田区
概要 病院薬局・調剤薬局向けの調剤機器・システムメーカー

トーショーは、1971年に設立され、東京都大田区に本拠を構える病院薬局・調剤薬局向けの調剤機器・システムメーカーです。50年以上にわたる調剤機器分野での実績とノウハウを背景に、調剤業務の効率化を支援しています。また、ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニーの製品の代理店も行っています。

同社の調剤ロボット「C-Correct II」は、分包機・監査システム・払出ロボットなどと連携し、一連の業務を自動化できる点が魅力です。

病院薬局、調剤薬局、ドラッグストアなど医療・薬局業界全般で幅広く活用されています。

メディカルユアーズロボティクス / Medicalyours Robotics

メーカー名 メディカルユアーズロボティクス / Medicalyours Robotics
設立年 2023年
本拠地 大阪府大阪市
概要 薬局向け自動調剤ロボット・調剤支援システムの開発・販売メーカー

メディカルユアーズロボティクスは、2023年に設立され、大阪府大阪市に本拠を構える薬局向け自動調剤ロボット・調剤支援システムの開発・販売メーカーです。現場薬剤師主導の開発による使いやすさと現場ニーズへの対応力を背景に、調剤業務の効率化を支援しています。

同社の調剤ロボット「RIEDL PHASYS」は、従来品の2倍のスピードで薬剤を払い出す点が魅力です。

主に調剤薬局(特に都市型・医療モール型薬局)、病院薬局などで活用が進んでいます。

湯山製作所 / Yuyama MFG

メーカー名 湯山製作所 / Yuyama MFG
設立年 1964年
本拠地 大阪府豊中市
概要 病院・薬局向け調剤機器・システムの総合メーカー

湯山製作所は、1964年に設立され、大阪府豊中市に本拠を構える病院・薬局向け調剤機器・システムの総合メーカーです。

分包機をはじめとする多彩な自社開発製品群と一貫生産体制を強みに、現場のニーズにマッチした高品質な製品を提供しています。

同社の調剤ロボット「DimeRo(ダイメロ)Ⅱ」は、少量分包や多品種対応など、日本の薬局実務に最適化されている点が特徴です。

病院薬局、調剤薬局、ドラッグストア、クリニックなど多様な医療機関で導入されています。

Becton, Dickinson and Company(BD)/ ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー

メーカー名 Becton, Dickinson and Company(BD)/ ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー
設立年 1897年
本拠地 アメリカ・ニュージャージー州
概要 医療機器・体外診断用医薬品・ヘルスケア関連製品のグローバルメーカー

ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー は、1897年に設立され、アメリカ・ニュージャージー州に本拠を置くグローバルな医療機器メーカーです。100年以上の歴史と世界50カ国以上に展開するネットワークを活かし、医療現場のさまざまな課題に対応しています。

同社の調剤ロボット「BD Rowa™」は、世界53カ国で15,000台以上の導入実績を持つ信頼性の高さが強みです。

主に調剤薬局や病院薬局での導入が進んでおり、グローバルスタンダードのロボットを求める現場に最適です。

タカゾノ / TAKAZONO

メーカー名 タカゾノ / TAKAZONO
設立年 1963年
本拠地 大阪府門真市
概要 医療・薬科機器(調剤機器・医療システム)の総合メーカー

タカゾノは、1963年に設立され、大阪府門真市に本拠を構える医療・薬科機器の総合メーカーです。分包機をはじめとする調剤機器分野でのトップクラスのシェアと知名度を誇り、多くの医療機関に選ばれ続けています。

同社の全自動薬剤払出機「Tiara」シリーズは、コンパクト設計により小規模薬局にも導入しやすい点が特徴です。

調剤薬局、ドラッグストア、病院、クリニックなど、幅広い医療機関で活用されています。