医療ロボット
医療ロボットは、診断・手術・リハビリ・消毒・搬送といった多様な医療工程を支援する革新的なテクノロジーです。人手不足の解消や医療の質向上を図る上で、近年ますます注目が高まっています。
本記事では、医療ロボットの特徴や活用例に加え、種類別のメリット・デメリットなどを詳しく解説します。
用途や施設環境に応じた選び方のポイントや、信頼性の高いおすすめのメーカーを一覧で紹介し、各社の強みを比較可能にまとめて役に立つ情報を網羅していますので、導入を検討中の方や、情報収集を始めたばかりの方もぜひご一読ください。
目次
医療ロボットとは? 特徴や活用例など基本的な情報を解説
医療ロボットとは、診断・治療・搬送・除菌など医療現場のさまざまな工程を自動化・支援するロボットの総称です。人間の手技を再現・増幅しつつ、高精度・再現性・遠隔操作性を担保できる点が大きな特徴として挙げられます。
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主な特徴
- 0.1mm単位の制御で組織損傷を低減し、より低侵襲な処置を実現
- 術者の経験差を平準化し、医師不足・属人化のリスクを軽減
- 一部のロボットでは、IoT/AI連携によりデータ収集と術後の分析を自動化
- 遠隔操作により感染症流行時や離島・僻地でも高度医療を提供可能
活用例としては、腹腔鏡下手術などを支援する手術支援ロボット、リハビリを自動支援するリハビリロボット、薬剤を自動分包する調剤ロボット、AGVに紫外線灯を搭載した紫外線照射ロボットなどがあります。近年はオープンプラットフォーム化も進みつつあり、製品の継続的な性能向上も図られているため、今後の発展に期待です。
ここまで、医療ロボットの一般的な特徴について説明しました。次の章では、医療ロボットにくくられるロボットを紹介します。
医療ロボットの種類をメリット・デメリット(問題点)とともに紹介
医療ロボットは応用領域ごとに特性が異なり、導入目的や投資回収のシナリオも変わります。以下では介護系分野で使用されるロボットを除いた、医療ロボットの主要5タイプの特徴・利点・課題をまとめます。
手術支援ロボット
主に多関節アームと高解像度3Dビジョンを組み合わせ、術者コンソールから遠隔で精密操作できるロボットです。腫瘍周囲の神経温存や複雑な縫合を要する低侵襲手術で威力を発揮します。
従来の腹腔鏡下手術よりも視野が拡大し、関節可動域が増えるため微細な縫合や角度変換が容易になり、出血量・合併症率の低減できる可能性が高まります。また術者間の技能差を平準化しやすく、教育プログラムとの相性が良い点も評価されるポイントです。
一方、装置価格が数億円規模に及ぶうえ、鉗子やドレープなど消耗品が専用品のためランニングコストが高い傾向です。また術者教育に時間を要し、稼働率が低いと投資回収が遅延します。
院内搬送ロボット
医薬品・検体・リネンなどを搬送するAGV/AMRで、SLAMやLiDARにより自律走行します。看護師や薬剤師の歩行距離を削減、人的配置をより専門的タスクへ再配分できるほか、滅菌カートを搭載することで手術室滞在時間も短縮に繋がります。
既存建築物へのエレベーター連携や自動ドア制御などインフラ改修コストが高い点は課題です。また歩行者との混在環境での安全規格が国際的に未整備なため、自治体によっては導入許可プロセスが長期化します。
病院内で運用されている搬送ロボットについては、以下の記事に事例など詳しい情報があります。
リハビリロボット
患者の身体機能や能力の回復をサポートするために用いられるロボットのことです。患者の運動学データをセンサで取得し、アルゴリズム制御や機械学習により歩容解析しながら最適トルクを付与します。メリットは、理学療法士1名あたりの訓練量を増やせること、客観データに基づく評価で回復プロセスを可視化できることです。
デメリットは、装着調整に時間を要し、特に筋緊張が強い患者では装着自体が困難な場合があることです。また日本では依然として保険償還が限定的で、導入ROIが見えにくい側面が残ります。
調剤ロボット
バーコードや画像認識で薬剤を識別し、自動分包・ラベリングまで行うクリーンルーム内設置型のロボットです。
メリットは、調剤過誤を減らしつつ24時間稼働できるため、夜間休日の薬剤供給を無人化できる点が挙げられます。薬剤管理料の加算で経済効果も得やすいです。
薬剤容器の規格変更や新剤形の追加時にロボット側のキャリアを改造しなければならない場合があり、その停止時間が病院業務に影響するのがデメリットに挙げられます。またITインフラとの連携不備があると在庫差異が発生しやすくなります。
調剤ロボットの種類など、詳しい情報は以下の記事で紹介しています。
紫外線照射ロボット
UV-CランプまたはUV-LEDを搭載したAGVが無人で病室を走行し、表面と空間の除菌を自動実施します。薬剤残留がなく短時間で広範囲を除菌でき、COVID-19のようなエアロゾル感染対策にも効果は限定的ではありますが、有効です。
稼働中は人が立ち入れず、診療スケジュールとの調整が必須なこと、感染症流行収束後には需要が急減して装置稼働率が落ちるリスクがあることはデメリットと考えられます。
ここまで、医療ロボットの種類を特徴・メリット・デメリットという形で紹介しました。次の章では、近年市場拡大傾向にある医療ロボットの、市場状況や世界シェアについて紹介します。
市場規模と世界シェア状況|医療ロボットのひとつである手術支援ロボットを例に
先進国の高齢化と慢性疾患増加、低侵襲手術の需要増などから、医療ロボット全体の2024年世界市場規模は約1.6兆円と推定され、年平均18%で成長し2034年には8.8兆円に到達する見込みです。中でも手術支援ロボットは市場の35%を占め、資本集約度も高くプラットフォーム競争が激化しています。
地域別の市場動向と規制環境
北米はFDAのPMA/510(k)プロセスが確立され、市場吸収力が最大です。病院の資金調達環境が良好で、平均稼働台数が他地域より20%高いことがベンダーの収益性を支えています。
欧州はMDR適合のハードルが高いものの、英国・ドイツ・フランスで償還価格が整備され普及が加速中です。特に整形外科ロボットはDRG体系との親和性が高く、高齢化に伴う膝・股関節手術の増加と連動して需要が伸びています。
アジアでは日本が先行し、2018年の胃がん手術保険適用を皮切りに、2022年には人工肩関節置換術まで対象が拡大しました。導入台数は年率25%で増加している状況です。中国はNMPA認証取得を急ぐ現地ベンチャーが台頭し、価格競争による平均販売価格(ASP)の低下が著しいです。
中南米・中東は依然として試験導入段階ですが、遠隔手術による専門医不足解消が政治課題となっており、多言語対応と通信インフラの整備次第でスケールする可能性があります。各地域とも規制認証だけでなく保険償還コードの獲得が市場成長のボトルネックです。
手術支援ロボットの世界シェア(2024年時点)
ここでは、手術支援ロボットを例に、どのようなプレイヤーが市場に存在するのかを紹介します。
2024年の出荷台数ベースでは、Intuitive Surgicalが「da Vinci」シリーズで1,347台を納入し、市場占有率は76.3%と圧倒的です。売上高ベースでは86.8%を握り、保守・消耗品ビジネスが堅調でARPU(1台当たり年間収益)は15万米ドル超に達します。
2位のAccurayは定位放射線治療向け「CyberKnife」で120台(シェア6.8%)を出荷し、放射線腫瘍科の無人化需要を取り込んでいます。
整形外科分野ではStrykerの「Mako」が日本市場で保険適用を獲得して90台(5.1%)を確保しました。Medtronicは脊椎・頭蓋内向けのMazorプラットフォームで80台(4.5%)を販売、イスラエルR&Dを背景にAIナビゲーションの精度を強みとします。
そのほか、英国CMR Surgicalや米Vicarious SurgicalがCEマーク取得を進め、2025年以降にシェアを奪取する可能性があります。
ここまで、医療ロボットの市場状況と世界シェアについて説明しました。次の章では、医療ロボットを選ぶ際に持っておくと良い視点について紹介します。
トラブルを回避するために最初に検討すべき視点|医療ロボットの選び方
医療ロボットの導入にあたり、性能や価格だけでなく、使用環境や法規制、安全性といった要素を考慮することが重要です。
ここでは、現場で実際に問題となりやすいポイントをもとに、医療ロボット選定時に特に注目すべき観点を紹介します。各項目はそれぞれ異なる状況において重要度が増すため、導入シーンに応じて検討することで、トラブル回避と安全性の向上を同時に実現できます。
滅菌対応性とクリーンルーム等級への適合実績を確認する
医療ロボットの選定において、滅菌対応性とクリーンルーム等級(例えばISO 14644 Class 5)への適合実績は見逃せないポイントです。ロボットの外装材質の耐薬品性や、採用している滅菌方式(EOG・γ線・H₂O₂など)、製造環境の清浄度によって左右されます。
この基準を軽視すると、治療を中止せざるを得ないといった重大なトラブルにつながる恐れがあります。特に注射剤や植込み型医療機器を無菌環境で封函・充填する工程では、この選定基準での検討が必須です。
高精度・冗長安全設計・国際安全規格を備えたロボットを選定する
サブミリメートル単位の精度、SIL3相当の冗長性を備えた安全設計を有するかどうかなどが、特に精密な手術やデリケートな工程では鍵となります。対象となる器具の材料特性や位置決め精度の要求水準、そしてISO 80601-2-77などの医療機器向け国際安全規格への準拠要件に影響されます。
この観点を軽視すると、手術器具の組立ミスや患者組織への過剰な圧力が発生し、深刻な医療事故を招く可能性があります。特に眼科用マイクロツールやカテーテルなど、微細でかつ患者の体内に直接関わる器具の取り扱いにおいては、このような高精度かつ高安全性を備えたロボットの導入が重要です。
ここまで、医療ロボットを選ぶ際に念頭においておくとよい視点を紹介しました。次の章では、医療ロボットの製造・販売に関わる国内外の企業を紹介します。
医療ロボットを比較して選ぶなら―おすすめのメーカー・代理店を徹底紹介
ここでは、医療ロボットの開発などに関わる、国内外のメーカー・代理店を紹介します。各社の特徴など、比較検討の参考にお役立てください。また、以下の会社が開発・生産・販売する医療ロボットには、補助金が活用可能なものもあります。
気になるメーカーや製品があり、話を聞いてみたいという方は、以下のボタンよりお問い合わせください。
※JET-Globalの問い合わせフォームに遷移します。
※一部メーカーとは提携がない場合がありますが、ユーザー様に最適なご案内ができるよう努めています。
エルエーピー / LAP
メーカー名 | エルエーピー / LAP |
設立年 | 2013年 |
本社 | 神奈川県厚木市 |
概要 | リハビリテーション用ロボット・福祉機器メーカー |
神奈川県厚木市に本社を構えるエルエーピーは、2013年設立のリハビリテーション用ロボットおよび福祉機器メーカーです。空気圧を活用した高い安全性とやさしい動作を特徴としたリハビリロボットを自社開発しており、在宅でも継続可能な他動運動の実現を目指しています。
代表的な製品は「まいリハ」や「CIP-50」です。特に空気圧駆動により麻痺した手や足のリハビリを安心して行える点が評価されています。
リハビリテーション病院や介護施設だけでなく、在宅介護の現場にも導入が広がっています。
アウトソーシングテクノロジー / Outsourcing Technology
メーカー名 | アウトソーシングテクノロジー / Outsourcing Technology |
設立年 | 2004年 |
本拠地 | 東京都千代田区 |
概要 | 技術系アウトソーシング企業 |
アウトソーシングテクノロジーは、2004年に東京都千代田区で設立された技術系アウトソーシング企業です。ITや医療機器など幅広い分野で技術者を育成・派遣し、自社開発によるロボティクスソリューションも展開しています。
代表的な医療ロボットとして、殺菌・消毒に特化した「SR-UVC」シリーズ(PROTRUDEブランド)があります。
遠隔操作や自走機能を備え、現場の状況に合わせた柔軟な対応が可能なため、病院や商業施設における感染対策用途で注目されています。
Intuitive Surgical / インテュイティブ・サージカル
メーカー名 | Intuitive Surgical / インテュイティブ・サージカル |
設立年 | 1995年 |
本拠地 | アメリカ・カリフォルニア州 |
概要 | 手術支援ロボットメーカー |
インテュイティブ・サージカルは、1995年創業のアメリカ・カリフォルニア州に拠点を置く、手術支援ロボット分野のパイオニア企業です。
革新的な「da Vinci Surgical System」により、世界的に評価される低侵襲手術の精度と効率性を実現しています。360度の可動域や手ぶれ補正機能を備えた高精度な制御技術で、従来の腹腔鏡手術では難しい複雑な手術にも対応できる点が特徴です。
現在では、一般外科・泌尿器科・婦人科など、世界中の主要病院で導入が進んでいます。
Accuray / アキュレイ
メーカー名 | Accuray / アキュレイ |
設立年 | 1990年 |
本拠地 | アメリカ・ウィスコンシン州 |
概要 | 放射線治療装置メーカー |
アキュレイは1990年にアメリカ・ウィスコンシン州で設立された、がん治療向けの高精度放射線治療装置メーカーです。
中でも「CyberKnife® S7™」は、ロボットアームによる三次元照射や動体追尾技術を標準装備し、非侵襲的な治療を可能にしています。患者の呼吸や動きに合わせて照射を自動調整することで、従来よりも治療の精度が向上しています。
世界中のがん治療専門機関や病院で採用され、放射線治療の質を高めています。
UVD Robots / UVDロボット
メーカー名 | UVD Robots / UVDロボット |
設立年 | 2016年 |
本拠地 | デンマーク・オーデンセ |
概要 | UV-C消毒ロボットメーカー |
デンマーク発のUVDロボットは、2016年に設立された自律型UV-C消毒ロボットのリーディングメーカーです。
主力製品「UVD Robot」シリーズは、完全自律走行で施設内を移動しながら消毒を行い、人手の削減と感染防止に貢献します。手動移動式と比べて消毒漏れやヒューマンエラーを防ぐ設計が特徴です。
医療機関に加え、教育機関や空港、商業施設でも広く導入が進んでおり、世界75%以上の市場シェアを誇ります。
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