農薬散布ドローン

農薬散布ドローン

広い圃場に同じ作業を繰り返す農薬散布作業。省力化したいと思いながらも「どの農薬散布ドローンが本当に自分の農地に合っているのか分からない」と感じていませんか?

農薬散布ドローンは、機体のサイズや飛行性能、散布精度、そして操作のしやすさなど、選ぶ基準が多岐にわたるうえ、メーカーごとの特徴にも違いがあります。

そこで本記事では、農薬散布ドローンの基本から、メリット・デメリット、選び方、種類の違い、そして実際に導入が進んでいる国内の代表的なメーカー5社を比較して紹介します。

この記事を読むことで、単なる製品の比較ではなく、「自分の圃場に合った最適な農薬散布ドローン」を見極めるためのヒントを得られるでしょう。

目次

農薬散布ドローンとは? できることや価格相場を解説

農薬散布ドローンとは? できることや価格相場を解説

農薬散布ドローンとは、農薬の散布作業を自動化するために開発された無人航空機の一種です。GPSや各種センサーを搭載し、自動航行や自動散布が可能で、農業の省力化・効率化に寄与します。

できることとしては、農薬や除草剤の空中散布だけでなく、液肥の散布、病害虫のモニタリング、可変施肥、さらには精密農業における圃場情報の収集を行える機種もあります。

また、近年では画像解析やAIとの連携により、病害虫の発生箇所を特定し、局所的に薬剤を投下する技術も進化しています。

さらに、ドローンの飛行高度や速度、散布量を自動制御できるモデルもあり、従来の手作業に比べて作業精度を向上可能です。

一部の高機能な農薬散布ドローンでは、1回のフライトで1ヘクタール以上を10分以内に散布可能であり、特に労働力不足が深刻な地域や広大な圃場でのニーズが高まっています。

価格帯は一般的に以下のように分かれます。

  • 小型機(5〜10Lタンク)
  • 約100万円前後

  • 中型機(10〜15Lタンク)
  • 約100万円〜250万円程度

  • 大型機(20L以上)
  • 約150万円〜300万円程度

実際の導入の際は、上記に加えて、RTK-GNSSや自動運航ソフトなどのオプション費用、導入研修費、メンテナンス費用、バッテリーの予備購入費なども考慮しましょう。

農薬散布ドローンの基本的な機能と価格帯が把握できたところで、次に人手による散布と比較したメリット・デメリットを見ていきます。

農薬散布ドローンと人手による作業を比較してメリット・デメリットを解説

農薬散布ドローンと人手による作業を比較してメリット・デメリットを解説

農薬散布ドローンは、農薬散布を自動化する強力なソリューションとして期待されており、作業の効率化以外にも、さまざまなメリットがあります。

一方で、それでも普及しない背景には、農薬散布ドローンの抱えるデメリットがあります。

本章でこれらの、農薬散布ドローンのメリット・デメリットを確認しましょう。

農薬散布ドローンを導入するメリット

農薬散布ドローンを導入する主なメリット

  • 背負い式散布機と比べて作業時間を短縮できる
  • 圃場に踏み込まずに散布でき、作物を踏み荒らさない
  • 丘陵地やぬかるんだ水田など、人の立ち入りが困難な場所でも作業が可能

農薬散布ドローンは従来の動力噴霧機や背負い式噴霧器と異なり、空中から散布を行うことで、1ヘクタールあたり平均して10分前後での散布が可能とされています。これにより、人手では1時間以上かかる作業も効率化可能です。

また、ぬかるみや斜面などの足場が悪い圃場においても空からの作業が可能なため、作業負荷を軽減すると同時に、機械の搬入も不要になります。

さらに、散布の均一性を確保しやすいため、薬害リスクの低減にもつながるでしょう。

農薬散布ドローンを導入するデメリット

農薬散布ドローンを導入する際の主なデメリット

  • 1回の散布時間に制限があり、バッテリー交換や薬剤補充が必要
  • 風速や降雨などの気象条件によって運用が制限される
  • 空中散布のため、ドリフト(飛散)リスクを考慮した運用が求められる

バッテリー駆動である農薬散布ドローンは数十分程度のフライトが限界であり、複数区画をまとめて散布する場合は、効率的なルート設計とバッテリーの予備が不可欠です。

また、農薬の飛散(ドリフト)を避けるために、気象条件や周囲への配慮を求められる点も、有人散布とは異なる運用上の注意が必要です。

これらのメリット・デメリットをふまえて、次に農薬散布ドローンの機体構造の違いを見ていきます。

機体形状によって農薬散布ドローンは4種類に大分される

機体形状によって農薬散布ドローンは4種類に大分される

農薬散布ドローンにも色々な種類があります。本章では、機体形状に着目して、農薬散布ドローンを4つに種類分けして解説します。

単ローター

単ローター型の農薬散布ドローンは、1つの大きな回転翼を持つヘリコプター型の機体構造です。ヤマハ発動機の無人ヘリ「FAZER R」などが代表的な例で、強力なダウンウォッシュ(下降気流)によって薬剤を作物の葉裏や株元まで浸透させやすいです。

単ローター型のメリット

  • ダウンウォッシュが強く、密植作物や高背作物にも薬剤が届きやすい
  • 風の影響を受けにくく精度の高い散布が可能

単ローター型のデメリット

  • 構造が複雑で価格が高く、騒音が大きい
  • 機体サイズが大きく取り扱いに慣れが必要

マルチローター

マルチローター型は、複数のプロペラを使って浮上・安定飛行を行う、最も普及しているタイプの農薬散布ドローンです。DJIなどの市販モデルの多くがこの構造を採用しており、操作性に優れているのが特徴です。

マルチローター型のメリット

  • 構造がシンプルで価格も比較的安価
  • 狭小地や棚田など地形の複雑な圃場に対応しやすい
  • 整備性が高く初心者にも扱いやすい

マルチローター型のデメリット

  • ダウンウォッシュが弱く、薬剤が葉裏や株元に届きにくい場合がある
  • 風の影響を受けやすく、安定性にやや劣る

固定翼

固定翼型は、飛行機と同じ構造で滑空移動するタイプの農薬散布ドローンです。長距離の直線飛行が得意で、大規模圃場における広域散布に向いています。

固定翼のメリット

  • 航続距離が長く、1回の飛行で広範囲の散布が可能
  • 作業スピードが速く、大面積を効率的に処理できる

固定翼のデメリット

  • 垂直離陸できないため滑走スペースが必要
  • 狭小地や障害物の多い圃場では使用が困難

VTOL(ハイブリッド固定翼)

VTOL(Vertical Take-Off and Landing)型は、垂直離着陸が可能な固定翼の農薬散布ドローンで、マルチローターと固定翼の機能を併せ持つ構造です。

VTOL型のメリット

  • 滑走路不要で垂直離着陸が可能
  • 固定翼の高効率飛行性能を併せ持ち、広域かつ地形への柔軟な対応が可能

VTOL型のデメリット

  • 機構が複雑でコストが高く、保守整備に手間がかかる
  • 操縦や設定にある程度の専門知識が求められる

それぞれの機体形状には、対応する圃場条件や目的が異なります。次は、これらの農薬散布ドローンを使用するうえで必要な資格や免許の要件を見ていきましょう。

農薬散布ドローンを使うのに免許・資格は必要?

農薬散布ドローンを使うのに免許・資格は必要?

農薬散布ドローンの運用において、通常の目視内・郊外飛行の場合は、国家資格は不要です。

しかし、2022年からスタートした「無人航空機操縦者技能証明制度(国家ライセンス制度)」により、特定飛行(人口密集地、目視外など)を行う場合には、国土交通省が発行する免許が必要になることがあります。

また、飛行には以下の条件を満たす必要があります。

  • 無人航空機の飛行許可・承認(航空法)
  • 農薬使用者の責任者としての講習(農林水産省ガイドライン)
  • ドローンスクールや団体が発行する技能認定証(任意だが取得推奨)

農薬を取り扱う場合は、農薬取締法に基づき「安全使用」の観点からも、農業用ドローン専用の実技講習を受講し、知識を身につけておくことが望ましいです。

以上より、免許や資格の要否を理解したうえで、適切な運用体制と法令遵守のもと、農薬散布ドローンを導入することが求められます。

農薬散布ドローンの基本について理解できたところで、次章からは、実際の導入を想定して、農薬散布ドローンの選び方を見ていきます。

農薬散布ドローンを導入する際に確認しておきたい選定ポイント

農薬散布ドローンを導入する際に確認しておきたい選定ポイント

先述したように、農薬散布ドローンにはさまざまな機能や種類があります。そのため、実際に導入する際には慎重な選定をしないと、自分の目的に合わなかったり、予算に収まらなかったりする製品を導入しかねません。

そのため、本章で農薬散布ドローンを選ぶ際に覚えておきたいポイントを3つに絞って紹介するので、ご確認ください。

作業面積と散布容量に合った機体サイズ

農薬散布ドローンの選定ポイントとして、1ヘクタール当たりの必要散布量に対し、タンク容量とバッテリー飛行時間が無補給で何往復できるかを基準に機体サイズを選ぶ方法があります。

登録農薬の希釈倍率や作物の葉面積指数、圃場の面積と形状といった要因が、この選定基準に影響するでしょう。

この選び方を無視して容量が不足する農薬散布ドローンを導入してしまうと、薬剤や電池の補給回数が増え、散布にムラが出たり作業全体が遅延したりするリスクが高まります。

特に、水源や充電設備が圃場から遠い山間部や、複数の小さな圃場が点在する分散型のほ場では、適切な容量と航続時間の機体を選ぶことが重要です。

適切な容量の農薬散布ドローンを選定できれば、補給頻度を抑えつつ作業時間を短縮することが可能になり、薬剤の濃度を安定させることで再散布の手間やコストを削減することにもつながります。

粒径制御と高精度航行が可能かどうか

農薬散布ドローンの選定においては、ノズルの粒径(μm)を調整でき、RTK-GNSSにより散布経路の誤差を制御できる機体を選ぶことが大切です。

作物の高さや株間、使用する農薬のラベルに記載された推奨粒径、地域の風環境や緩衝帯規制などが、適正粒径と航行精度の必要要件を決める要因となります。

粒径が合っていないと、ドリフトによって薬剤が想定外の場所に飛散し、周辺の作物や水路に被害を与えるおそれがあります。住宅や水田が隣接する果樹園や茶畑など、ドリフトに関する規制が厳しい圃場では、より高精度な粒径制御と航行性能を備えた機体が必要でしょう。

こうした制御ができる農薬散布ドローンを選定することで、薬剤の使用量を削減しながらも防除効果を維持することが可能になり、環境負荷の低減にもつながります。

地形追従と障害物検知機能を備えているか

農薬散布ドローンの選び方の一つとして、LiDARやレーダーによる高度センサーとAI障害物検知機能を備え、傾斜地でも自動で高度を維持できる機体を選ぶことが挙げられます。

圃場における高低差、周囲の電線や樹木などの障害物の密度、そして散布時に許容される飛行高度の範囲といった要因が、センサーの性能要件を左右します。

こうした機能が不十分な農薬散布ドローンでは、作物への接触や障害物との衝突による機体の損傷リスクが高まるだけでなく、薬剤の過剰散布が発生しやすくなります。

棚田や果樹棚といった起伏が大きく、障害物が多い圃場では、地形追従機能と障害物回避性能を重視して機体を選定することが特に求められるでしょう。

これらの機能が備わった農薬散布ドローンであれば、飛行高度を一定に保ちながら圃場全体を均一に散布できるため、作業効率と防除精度が高まる可能性が高いです。

以上が、農薬散布ドローンを導入する際に確認しておきたい3つのポイントです。

次章では、おすすめの農薬散布ドローンのメーカーを5社に絞って紹介します。各社の製品の特徴も解説するので、ぜひご覧ください。

【各製品の特徴を比較】おすすめの農薬散布ドローンメーカーを紹介

【各製品の特徴を比較】おすすめの農薬散布ドローンメーカーを紹介

最後の章では、おすすめの農薬散布ドローンメーカーを紹介します。以下に紹介するメーカーの製品は補助金が活用可能なものもあります。

各社の製品の特徴を比較して分かった、強みも解説するので、気になるメーカーや製品がある場合は問い合わせをしてみましょう。

※JET-Globalの問い合わせフォームに遷移します。
※一部メーカーとは提携がない場合がありますが、ユーザー様に最適なご案内ができるよう努めています。

ヤマハ発動機 / Yamaha Motor

メーカー名 ヤマハ発動機 / Yamaha Motor
設立年 1955年
本拠地 静岡県磐田市
概要 二輪車・無人ヘリまで手がける“モビリティ総合メーカー”

ヤマハ発動機は、1955年に設立され、静岡県磐田市に本拠を置く、二輪車から無人ヘリまで手がけるモビリティ総合メーカーです。農薬散布ドローン分野では、30年以上にわたる無人ヘリの量産実績と全国のサービス拠点網を武器に、信頼性の高い運用支援体制を整えています。

代表機種には、マルチローター型の「YMR-08」や単ローターの「FAZER R」があり、どちらもオートパイロット機能を備えています。

特にYMR-08は、8Lのタンクと二重反転ローターによる強力なダウンウォッシュを活かし、葉裏や株元まで薬剤を均一に届けることが可能です。初心者でもムラのない防除ができ、1ヘクタールあたりの散布所要時間は約10分と高い効率性を発揮します。

北海道十勝の馬鈴薯圃場で導入され、防除作業時間を5〜7割削減した実績も報告されています。

ナイルワークス / Nileworks

メーカー名 ナイルワークス / Nileworks
設立年 2015年
本拠地 埼玉県さいたま市
概要 AI×自動飛行特化の農業ドローン専業メーカー

ナイルワークスは2015年に設立され、埼玉県さいたま市南区に本社を構える、AIと自動飛行制御に特化した農業ドローンの専業メーカーです。独自の画像解析技術と近接飛行アルゴリズムにより、圃場を自動解析して自律的に飛行できる点が特徴です。

主力の農薬散布ドローンには「Nile-JZ Plus」「Nile-T20」があり、特にNile-JZ Plusは作物の背丈に合わせて30cmの近接飛行を行い、リアルタイムの植生解析に基づく可変散布を可能にします。

操作もワンボタンで航路を自動生成でき、初心者でも運用しやすい設計です。可変散布や植生解析に対応したナイルワークスの機体は、データ駆動型の農業を実現したい現場に適しているでしょう。

青森県五戸町の水稲農家ではNile-JZ Plusを導入し、実際に肥料コストを削減する成果を挙げています。

NTT e-Drone Technology

メーカー名 NTT e-Drone Technology
設立年 2020年
本拠地 埼玉県朝霞市
概要 NTTグループとJAグループが出資する国産ドローン専業会社

NTT e-Drone Technologyは、2020年に設立された埼玉県朝霞市に本社を構える、ドローン専業企業です。通信とAI技術、そして農協ネットワークを活用した遠隔運用支援と全国対応のサポート体制が強みです。

主な農薬散布ドローンには「AC101」「AC101 Connect」などがあり、いずれも高精度な自動飛行機能を備えています。中でもAC101 Connectは、1バッテリーで最大2.5ヘクタールの自動散布が可能で、クラウドと連携したデータ活用型の精密農業に対応しています。

5Gやローカル5G通信にも対応しており、リアルタイムでの散布状況把握や運用最適化が可能です。他社に比べて、ICT連携力に優れ、農業DXの推進を支援する点が際立っています。

福島県の「かんだファーム」ではAC101 Connectを導入し、散布効率を向上させる成果を上げています。

マゼックス / MAZEX

メーカー名 マゼックス / MAZEX
設立年 2017年
本拠地 大阪府東大阪市
概要 国産農業ドローンメーカー

マゼックスは、2017年に法人化された大阪府東大阪市の農業ドローンメーカーで、2009年の創業以来、独自開発の“飛助”シリーズに特化してきました。大型4枚プロペラと高出力モーターを組み合わせることで、強力なダウンウォッシュ性能を実現している点が特徴です。

代表的な農薬散布ドローンには「飛助mini」「飛助DX」「飛助10」「飛助15」などがあり、用途や規模に応じた豊富なラインアップを展開しています。

中でも飛助DXは、高風環境でも薬剤を葉裏まで確実に届ける大風量設計が評価されており、ドリフト抑制にも優れています。

5〜15Lのタンク容量に応じて選べる構成と、90万円台からの導入しやすい価格帯も魅力のひとつです。

山形県庄内の大規模水稲法人では飛助DXを活用し、省力化を実現しています。

丸山製作所 / Maruyama Mfg.

メーカー名 丸山製作所 / Maruyama Mfg.
設立年 1937年(創業1895年)
本拠地 東京都千代田区
概要 動噴・ポンプ技術に強みを持つ老舗の農機メーカー

丸山製作所は、1937年設立の長い歴史を持つ東京都千代田区の老舗農機メーカーです。動噴やポンプ分野で蓄積された高度な技術力を背景に、農薬散布ドローンにおいても高精度な噴霧制御技術を活かした製品展開を行っています。

代表的な農薬散布ドローンには「MMC940AC」や「MMC1501」などがあり、いずれも“スカイマスター”シリーズとして自社開発のポンプと6ローター制御により安定した微細霧の均一散布を可能にしています。

特に軽量でコンパクトな筐体設計は、山間部や傾斜地などの狭小地における操作性に優れています。

全国1000か所を超える販売・整備拠点により、アフターサポートの面でも安心して導入できます。

実際に、中山間地の茶園ではMMC940ACを導入し、従来の背負式に比べて効率的な散布を実現しという報告もあります。