研磨ロボット
熟練作業者の手に頼っていた研磨工程を、自動化によって省力化・標準化できる研磨ロボット。近年では、力制御やツール交換といった技術の進化により、以前は難しいとされた鏡面仕上げや複雑形状の研磨も自動化できるようになってきました。
ただし、目的に合った研磨ロボットを選ばなければ、仕上がりの不具合やライン停止といった新たな課題を生む可能性もあります。
本記事では、研磨ロボットの定義や種類だけでなく、導入前に理解しておくべき選定基準や当編集部が厳選したおすすめの研磨ロボットメーカー5社の情報も紹介します。
自社に最適な研磨ロボット選びに役立つ内容なのでぜひご覧ください。
目次
研磨ロボットとは? 概要や事例を分かりやすく解説
研磨ロボットは、金属や樹脂などの表面を自動で磨くために開発された産業用ロボットで、加工精度の向上・作業者の負担軽減・工程の安定化といった目的で導入が進んでいます。
人手による研磨は技術の属人化や作業環境の過酷さが課題とされてきましたが、研磨ロボットの導入により、24時間連続稼働や精密制御による仕上がり品質の均一化が実現可能です。
また、近年は研磨圧の制御や多軸動作、高感度センサの搭載により、これまで難しかった曲面部の研磨や鏡面仕上げも可能になりつつあります。
研磨ロボットの主な活用事例としては、自動車業界における外装パネルのバフ研磨や、航空機に用いられる複合材のトリミング仕上げ、建設機械の鋳造部品に対するバリ取り作業などがあり、いずれも大量生産や高い品質管理が求められる現場で活用されています。
今後は、さらに多様な業界や製品形状への対応が進み、研磨工程の自動化が標準化されていくと見られています。
研磨の種類を目的別に分けて紹介
研磨加工は、目的によって使用される手法やロボットへの要求性能が異なります。ここでは、代表的な5つの目的別に分類し、それぞれの特徴や活用場面について解説します。
突起除去(バリ取りなど)
突起除去は、鋳造、鍛造、プレス、切削などの加工後に部品のエッジや表面に発生する微細な突起(バリ)を除去する目的で行われます。これらのバリは、製品の組立不良や安全上の問題、仕上げ工程での支障となるため、確実な除去が求められます。
研磨ロボットは、バリの形状や位置のばらつきに対応するために、力制御やワーク追従機能が必要であり、ブラシ、砥石、ディスクなどのツールを用いて自動でバリを研磨可能です。
特に鋳造品や構造部品の量産現場では、品質の均一化と生産性向上を両立できる手段としてバリ取りロボットの活用が進んでいます。
形状仕上げ(ホーニングなど)
形状仕上げは、寸法精度や幾何公差、表面粗さなどの仕様を満たすために、研磨によって微細な成形補正を行う加工です。その中でも、ホーニングは代表的な手法で、内径の真円度・円筒度を高精度で整える際に用いられ、エンジン部品や油圧機器などの機能部品で多用されます。
研磨ロボットによる自動化では、切削力や位置決めの安定性に加え、加工後の品質ばらつきを抑えるためのフィードバック制御が重要です。高精度な形状制御が求められるため、専用治具や加工シーケンスとの連携も含めた総合的なシステム設計が求められます。
外面均質化(バレル研磨、ラッピングなど)
外面均質化は、ワーク表面の微細な凹凸をならし、全体の質感や表面特性を均一に整えることを目的とした研磨です。
例えば、バレル研磨は、複数の小型ワークをメディアとともに容器内で回転・振動させて同時に処理する手法で、ボルトや歯車などの大量仕上げに向いています。
また、ラッピングは高精度な平坦性や光沢が求められる部品(例:光学レンズ、金型)に対して個別に行う工程で、面精度と再現性が重視されます。
研磨ロボットによる外面均質化では、処理条件の自動変更や部品毎の最適動作切替といった柔軟な運用が求められ、導入成功すると安定した品質と工程短縮を実現可能です。
美観仕上げ(バフ研磨、ポリッシングなど)
美観仕上げは、製品表面に光沢や反射性、滑らかな手触りといった外観上の品質を与えることを目的とした仕上げ研磨です。
例えば、バフ研磨は、布やフェルト製のバフに研磨剤を付けて磨く手法で、金属の鏡面加工に多用されます。ポリッシングはより細かい粒度の研磨材で傷や曇りを除去し、艶出しを行う工程です。
研磨ロボットには、一定の接触圧で面全体をムラなく磨き上げる均一性や、研磨剤の適切な供給、複雑形状への柔軟な追従性が求められます。
自動車外装部品、家電製品の筐体、装飾金属などに使われることが多く、製品の付加価値を高める工程として注目されています。
化学的平滑化(電解研磨など)
化学的平滑化は、物理的な研磨手段を用いずに、化学反応や電気化学的プロセスを通じて金属表面の凹凸を溶解・除去し、滑らかで清浄な表面を得る加工方法です。
その中でも電解研磨では、金属を陽極として電解液中で電流を流し、凸部を選択的に溶解することで表面平滑化を実現します。この方法は、物理的研磨では届きにくい微細穴や複雑な内部構造にも対応できる点が強みで、医療機器、食品加工設備、半導体部品などで用いられます。
自社の目的に合った研磨がどの種類に当てはまるか整理できたでしょうか?次章では、業界でよく言われている「研磨工程の自動化は難しいのか?」という問いに答えます。
ロボットによる研磨加工の自動化は難しい?
研磨ロボットによる研磨工程の自動化は、溶接や搬送などの他の加工工程に比べて難易度が高いとされています。その主な理由は、被研磨物の形状や材質、摩擦による振動や工具摩耗といった変動要素が多く、常に一定の押し当て力と接触面制御が求められるためです。
また、作業中のワークのばらつきや部品個体差にも対応しなければならず、熟練工が長年培った感覚を研磨ロボットに置き換えることに疑念を抱く方もいるでしょう。
しかし近年では、トルクセンサや力覚センサを搭載し、研磨ロボットが接触圧をフィードバック制御することで、リアルタイムに研磨条件を最適化できる技術が登場しています。
さらに、AIや機械学習を用いた研磨経路の自動生成、ワーク形状の自動認識といった要素技術も実用化が進んでおり、自動化のハードルは徐々に低下しつつあります。
ただし、導入にあたっては研磨ロボットの基本性能だけでなく、ワーク条件や生産ラインとの連携、粉塵対策や安全設計も含めた総合的なシステム構築が不可欠です。
研磨ロボットによる研磨自動化を成功させるには、適切な技術選定と検証プロセス、そして現場ニーズを反映した導入設計が求められるでしょう。
次章では、研磨ロボットの導入を実際に考えている方に向けて、研磨ロボットの選び方を解説します。自社に適した製品を導入するためにぜひご一読ください。
自社に適した研磨ロボットの選び方を解説
先述した通り、研磨には色々な種類があるので、製品選びは慎重になる必要があります。
本章では、研磨ロボット選びにおいて特に重要となるポイントを3つに絞って解説したので、ぜひご覧下さい。
面粗さに応じた砥粒や工程対応の確認
研磨ロボットの選定において、求める表面の面粗さに応じて使用可能な砥粒の粗さや、複数工程に対応できるかを確認することは重要です。使用する砥粒の粒度や種類、対象となるワークの材質、さらには目標とする面粗さ値によって、最適な仕様は異なります。
これらを見誤ると、所望の仕上がりに届かず追加研磨や手作業が必要となり、結果として生産ラインが停止したり、コストが増大するリスクが高まります。特に金型や医療機器など、鏡面レベルの仕上げが求められる用途では、事前の選定段階でこの点を徹底的に確認しておきましょう。
このような選定ポイントをみて研磨ロボットを適切に選べれば、一度の加工で理想的な表面加工を得ることができ、検査や手直しの手間も削減されます。
力制御の有無による仕上げ品質の安定化
研磨ロボットを選定する際には、曲面や縁部に対しても均一に押し当てることができるよう、押付け力を自動で調整する機構の有無も大事な判断基準です。
ワークの曲率半径や厚み、ロボットアームの剛性といった物理的要因によって、どのような力制御方式が適しているかが決まります。
これを考慮せずに選定を行うと、削り過ぎやエッジの丸まりといった仕上げ不良が多発し、歩留まりが低下する要因となります。とりわけ、タービンブレードや車体外板といった複雑かつ薄肉のワークを扱う場合には、精密な力制御の有無が品質安定の鍵を握るでしょう。
最適な力制御を持った研磨ロボットを選ぶことで、こうした複雑形状に対してもムラのない研磨痕が得られ、リジェクト率の抑制につながります。
ツール自動交換・供給機構の有無
研磨ロボットの選び方として、砥石やパッド、スラリーなどを自動で交換・供給できる仕組みを備えているかどうかも検討要素のひとつです。
ロットごとに粒度変更が頻繁に発生する場合や、研磨パッドの摩耗速度が早い環境では、ツールチェンジャーの仕様や自動供給機構の有無が運用性を左右します。
これらが整っていないと、品種切り替えのたびに手動交換が必要となり、ライン停止による生産性の低下や異物混入のリスクが高まります。特に航空機複合材や精密部品といった多品種小ロット生産の現場では、この選定ポイントが欠かせません。
ツール自動交換機能を備えた研磨ロボットを導入すれば、粗研磨から鏡面仕上げまでを自動で完結でき、計画的な生産体制を築くことが可能になります。
次章では、当編集部おすすめの研磨ロボットの代表的なメーカーを紹介しています。ここまでの内容を踏まえて、気になるメーカーがあれば問い合わせをしてみましょう。
研磨ロボットのおすすめメーカーを紹介! 各社の特徴を比較
本章では、代表的な日本の研磨ロボットメーカーを見ていきます。各社の特徴を比較した分かった強みも解説しているので、最後までご覧ください。
ファナック / FANUC
メーカー名 | ファナック / FANUC |
設立年 | 1972年 |
本拠地 | 山梨県南都留郡 |
概要 | CNC・サーボ・産業用ロボットをフル自社開発するFA総合メーカー |
ファナックは1972年設立、山梨県南都留郡に本拠を構える、CNCや産業用ロボットを自社開発するFA総合メーカーです。ロボットとCNCを単一ベンダーで統合可能で、世界270拠点以上のサービス網を有する点が強みです。
同社の研磨ロボットとしては、R-2000iC シリーズに「Material Removal」ソフトウェア+Force Sensor(オプション)を組み合わせた構成が広く採用されています。
Force Sensorによる押付け力フィードバック制御に加え、ツール自動交換や研磨剤供給・集塵機構を組み込むことで、粗研磨からバフ仕上げまでの工程を一つのセルで自動化可能です。
この構成は、自動車外装パネルのバフ研磨、航空機 CFRP パネルの高剛性トリミング、建設機械鋳造部品のバリ取りなどで実稼働実績があります。
安川電機 / Yaskawa Electric
メーカー名 | 安川電機 / Yaskawa Electric |
設立年 | 1915年 |
本拠地 | 福岡県北九州市八幡西区 |
概要 | モーション制御機器と産業用ロボットの大手メーカー |
安川電機は1915年に設立され、福岡県北九州市に本社を構えるロボットと制御機器の総合メーカーです。独自のアルゴリズムと高剛性アームを組み合わせた高精度な軌跡制御に定評があります。
研磨ロボットとしては「GPシリーズ」と力制御パッケージ「MotoFit」の組み合わせがあります。
この組み合わせにより、高分解能(数Nオーダー)での力制御が可能となり、複雑曲面においても均一な研磨仕上げを実現でき、製品表面の品質ばらつきを抑えた自動化が可能です。
導入例としては、医療機器のハウジング鏡面仕上げや鋳造ギアのバリ取り工程などが挙げられます。
川崎重工業 / Kawasaki Heavy Industries
メーカー名 | 川崎重工業 / Kawasaki Heavy Industries |
設立年 | 1896年 |
本拠地 | 東京都港区 |
概要 | 総合重工業メーカーで60年以上の産業ロボット実績 |
川崎重工業は、1896年設立の東京都港区に本社を置く総合重工業メーカーで、数十年以上にわたる産業用ロボットの開発実績を持ちます。重作業対応の高剛性ロボットに加えて、遠隔操作プラットフォームを併せ持つ点が強みです。
研磨ロボットには「Successor-G 研削・研磨システム」がラインナップされており、ハードな研磨作業への対応力に優れています。
特に遠隔操作と力覚フィードバックを融合させることで、安全性を保ちながら厚板溶接部のビード研削といった重負荷作業の無人化が可能です。
このような特徴から、造船や橋梁といった重工業分野での厚板研削セルなどに数多く導入されています。
不二越 / Nachi-Fujikoshi
メーカー名 | 不二越 / Nachi-Fujikoshi |
設立年 | 1928年 |
本拠地 | 東京都港区 |
概要 | 切削工具・ベアリングからロボットまで一貫生産する総合機械メーカー |
不二越は、1928年設立の富山県富山市に本社を置く総合機械メーカーで、切削工具やロボットなどの一貫生産体制を強みとしています。省スペース設計とスピード性能を兼ね備えたMZシリーズが好評で、研磨工程の自動化にも応用されています。
同社の研磨ロボットには「MZ35F」や「MZ50F」があり、複雑形状にも柔軟に対応可能です。
中空リスト構造によりツール配線の干渉を抑え、ツールをワーク近傍まで自在にアプローチできる点が他社製品との違いです。
この特性により、アルミダイカスト部品の自動バフ研磨や、自動車サスペンション部品のバリ取り工程などに数多く導入されています。
三菱電機 / Mitsubishi Electric
メーカー名 | 三菱電機 / Mitsubishi Electric |
設立年 | 1921年 |
本拠地 | 東京都千代田区 |
概要 | FA制御機器と産業用ロボットを統合する電機大手 |
三菱電機は1921年に設立され、東京都千代田区に本社を構える電機大手で、FA機器と産業ロボットを統合する強みを持ちます。制御機器とロボットをシームレスに統合できる「iQ Platform」によって、生産ラインの設計と拡張が容易になる点が強みです。
同社の研磨ロボットは「RV-Fシリーズ」と「Deburring / Polishing Application」で構成され、短時間での段取り替えが可能です(※RV-F/RH-Fシリーズおよび当パッケージは2024年3月に生産・提供終了し、後継のRV-FR シリーズ用ソフトへ順次置換)。
マスターワークをなぞることで研磨経路を自動生成する機能を備え、初期設定の負荷を軽減できるため、特に段取り替えが頻繁な中小ロット生産の現場での活用が進んでおり、電子部品の樹脂バリ取りや精密金属ケース仕上げ用途での採用例も報告されています。
以上がJET-Globalがおすすめする研磨ロボットのメーカーです。気になるメーカーがある場合は、以下のボタンからJET-Globalにお問い合わせください。
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