トンネル点検ロボット

トンネル点検ロボット

トンネル点検ロボットは、トンネルの老朽化や劣化を安全かつ効率的に確認するために開発されたロボットです。「人の手で確認するには危険が伴う」「精度にばらつきが出る」「作業時間がかかる」そう感じている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、トンネル点検ロボットの基本的な特徴や種類、導入のメリット、注意点をわかりやすく解説します。さらに、点検対象や現場環境に応じた選び方や、おすすめのメーカー情報も掲載しています

トンネル点検業務の安全性・効率性を向上させたいとお考えの方にとって、実用的な判断材料となる内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

トンネル点検ロボットとは? 特徴や最新技術を紹介

トンネル点検ロボットとは? 特徴や最新技術を紹介

トンネル点検ロボットとは、トンネル構造物の劣化や異常を効率的かつ高精度に把握するために開発されたロボットです。人手による点検に比べて、安全性の向上・作業時間の短縮・コスト削減を実現する手段として注目されています。

これらは、トンネルの壁面を走行したり、ドローンとして空中を移動したり、ロボットアームを駆使して接触式の検査を行うなど、目的や環境に応じて様々な形状や技術が採用されています。

また、近年はAIや画像解析技術の進化によって、ひび割れや漏水などの異常箇所を自動で検出する精度が向上しており、点検データをクラウドにリアルタイム送信し、遠隔地でのモニタリングや履歴管理も可能になってきました。

点検対象は主にコンクリート構造の覆工面や構造物内部で、非破壊検査技術を組み合わせることで、目視では発見できない内部の劣化兆候も捉えることができます。

トンネル点検ロボットは今後ますます重要性を増し、インフラ維持管理の高度化に欠かせない存在となっていくでしょう。

次の章では、点検ロボットの「形状」や「点検手法」による分類について詳しく解説します。

形状や点検手法でトンネル点検ロボットを種類分け

形状や点検手法でトンネル点検ロボットを種類分け

トンネル点検ロボットは、その形状や搭載している点検技術によって、いくつかの種類に分類されます。現場の環境や点検目的によって、最適なロボットの選定が求められます。

ここでは、「形状による分類」と「点検手法による分類」の2つの視点から代表的なロボットタイプを紹介します。

形状による種類分け

接触式点検機器を搭載したロボットアーム型

ロボットアーム型のトンネル点検ロボットは、アームの先端に打音検査や触診センサなどを搭載し、覆工面に直接接触して点検を行うタイプです。主にトンネル内に設置された足場車両などに搭載される形で利用されます。

メリット

  • 正確な位置での接触点検が可能
  • 定量的なデータを取得しやすい
  • 他方式では困難な深部の異常検知が可能

デメリット

  • 走行自由度がなく、設置作業に時間がかかることが多い
  • 大規模な車両や足場が必要
  • 対応可能な範囲が限られる

壁面走行車型

壁面走行車型は、トンネルの側壁や天井に吸着・走行しながら、画像やレーザーなどで点検を行う自律型のタイプです。磁石や吸盤、ファン吸引などの技術で壁面に密着します。

メリット

  • 人が立ち入れない場所でも点検可能
  • ある程度の距離を自律的に連続走行できる
  • 安定した画像撮影やデータ収集が可能

デメリット

  • 強力な吸着機構が必要
  • 湾曲部や凹凸面の対応に限界がある
  • 重量やサイズ制限がある

ドローン型

ドローン型のトンネル点検ロボットは、小型無人航空機を使って空中からトンネル内を点検する方式です。GPSが使えない環境でも、SLAM(自己位置推定)やセンサフュージョンにより安定飛行します。

メリット

  • 足場や車両が不要
  • 複雑な構造にも柔軟に対応
  • 点検時間が短縮される可能性が高い

デメリット

  • 飛行中のブレや振動による撮影精度低下
  • バッテリー制約により長時間稼働が困難
  • 操縦や自律飛行の技術が必要

点検手法による種類分け

打音点検

ハンマーやアクチュエータで覆工面を叩き、その音響反応から空洞や浮き、剥離などの異常を検出する伝統的かつ信頼性の高い手法です。近年ではロボットアームに自動打音装置を搭載し、定量的なデータを取得可能です。

メリット

  • 内部の剥離や空洞を高精度に検知可能
  • ロボットアームにより均一な打撃が可能
  • 打音のデータを数値化して蓄積・比較できる

デメリット

  • 接触式のため、足場や接近機構が必要
  • 騒音や振動による影響を受けやすい

画像解析

高解像度カメラで撮影した画像から、AIや画像認識アルゴリズムを用いてクラックや漏水、変色などを自動抽出する技術です。近年は3D画像解析やディープラーニングの導入で精度が向上しています。

メリット

  • 非接触で広範囲を短時間に点検できる
  • AI解析により判断の属人性を排除できる
  • 他方式と比べてドローン型との相性が高い

デメリット

  • 照明条件や表面状態に撮影品質が左右される
  • 深部の損傷は検出できない
  • 高精度な解析には大量の学習データが必要

レーダー探査

電磁波を用いた非破壊検査手法で、コンクリート内部の空洞、鉄筋の腐食、ひび割れ深さなどを計測できます。トンネル内部に設置した装置から放射されるレーダー波の反射を解析します。

メリット

  • 目視や画像では確認できない内部の異常を把握可能
  • 覆工厚や鉄筋の深さを数値化して比較できる

デメリット

  • 高価な装置と解析ソフトが必要
  • 装置を密着させる必要があり走行型との相性が限定的
  • 解析には専門知識が不可欠

サーモグラフィ

赤外線カメラを使用して表面温度を計測し、内部の異常や漏水箇所を視覚的に検出する手法です。点検中の気温や湿度に左右されやすいため、他の手法との併用が効果的です。

メリット

  • 表層の温度異常を短時間で把握できる
  • 漏水箇所やひび割れ進行の兆候を視覚化可能
  • 非接触のためドローンや走行型との相性が高い

デメリット

  • 気象条件に影響される
  • 内部の異常は直接確認できない
  • 解析には温度差の判断基準が必要

以上がトンネル点検ロボットの種類分けです。自社の目的に適した形状や点検方法は見つかったでしょうか?

次章では、トンネル点検の重要性を改めて確認し、ロボットで代替する際の注意点を解説します。

トンネル点検の重要性とロボットを使う際の注意点

トンネル点検の重要性とロボットを使う際の注意点

トンネルの安全性を維持するためには、定期的かつ精度の高い点検が不可欠です。点検ロボットの活用が進むなかで、その利点と導入時の注意点について理解を深めることが重要です。

トンネル点検の重要性

トンネルは一度建設されると数十年単位で使用され続けるため、構造物の経年劣化に対して継続的な監視が求められます。わずかなひび割れや漏水でも、放置すれば構造全体に影響を及ぼし、事故につながる可能性があります。

特に高速道路や鉄道など通行量の多いインフラでは、事前に異常を検知して補修を行う「予防保全」が大切です。

また、道路法などの法令により、5年に1度の近接目視点検などが義務付けられており、これを確実に実施することが安全性の確保と社会的責任を果たすうえで欠かせません。

適切な点検を通じて重大なトラブルを未然に防ぎ、長期的な維持管理コストの削減にもつなげることができるでしょう。

ロボット導入時の注意点

点検ロボットの導入により、安全性や作業効率の向上が期待されますが、現場ごとの条件を正確に把握したうえでの運用が不可欠です。

トンネルは形状や勾配、湿度、内壁素材などがそれぞれ異なるため、すべての現場に共通するトンネル点検ロボットというものは存在せず、目的に応じた選定が求められます

点検の方式によっても必要とされるセンサーや機構が異なり、例えば打音検査にはアクチュエータと音響センサが必要となる一方で、ひび割れ検出には高解像度カメラや画像解析機能が求められます。

こうした機能の選定には、土木工学や設備管理に関する知識が必要です。

さらに、トンネル点検ロボットが取得した膨大なデータを正確に分析・判断するには専門的なスキルを持った人材が欠かせません

AIによる自動判定が普及しつつありますが、すべてをAIに任せてしまうと誤検知や見落としのリスクも伴います。最終的な確認は人の目で行うという体制づくりが大切でしょう。

加えて、ロボット導入には高額な初期費用がかかることに加え、機材の操作に習熟したオペレーターの育成も必要です。導入効果を最大限に発揮するためには、単なる機器購入にとどまらず、組織全体での運用体制の構築が重要となります。

ここまででトンネル点検ロボットの基礎から種類・重要性までを解説しました。次章では、現場に適したトンネル点検ロボットをどう選べばよいか、選定のポイントを具体的に紹介します。

導入失敗を避けるために確認したいトンネル点検ロボットの選び方を解説

トンネル点検ロボットの選び方を解説

トンネル点検ロボットは、単に最新機能を備えているからといって、すべての現場に適しているとは限りません。点検対象の構造や目的に合わせて、最適な製品を選定することが重要です。

ここでは、導入失敗を避けるために確認すべき3つの視点を紹介します。

トンネル断面形状や路面状態に合った移動方式を選ぶ

トンネル点検ロボットの選定ポイントとしてトンネル断面形状や路面状態に合った移動方式(壁面走行・床走行・ドローンなど)を選ぶという観点があります。

この選択は、円形・馬蹄形・矩形などの断面形状や、内装材の凹凸・勾配・濡れ具合といったトンネル固有の特徴によって左右されます。

適合しない移動方式を選ぶと、走行不能や途中停止といったトラブルが発生し、点検作業が中断されたり、そもそも一部の構造が確認できないといった問題に発展しかねません。

特に、坑口が狭かったり、老朽化による路面の段差が激しいトンネルでは、この選び方が重要になります。

一度の走行で全周を均一にスキャンでき補修計画の精度が向上することで、現場の生産性と安全性を同時に高めることが可能です。

検査目的に対応したセンサー構成を備えているかを確認する

トンネル点検ロボットを選ぶ際には、検査目的に対応したセンサー構成を備えているかを確認しましょう。このポイントは、国交省が定める道路トンネル定期点検要領などで要求される劣化項目や診断精度といった要因によって決まります。

目的に合わないセンサーを搭載したトンネル点検ロボットを使うと、剥離や漏水、ひび割れといった重要な劣化を見逃すリスクがあり、結果的に大規模な事故につながる恐れがあります。

特に、国の基準に準じた精密調査を一度で完結させたい場合には、この選択が大切です。

一台で複数欠陥を同時検出でき現場作業と再点検回数を削減できることにより、調査の効率と信頼性が向上するでしょう。

電源・駆動方式がトンネル長と作業時間に適合するかを確認する

また、電源・駆動方式がトンネル長と作業時間に適合するかを確認するという点も実務では大事です。この判断は、対象トンネルの長さや勾配、作業できる通行止め時間の制限、さらに現地の電源設備の有無など、複数の現場条件に基づいて行われます。

不適切な駆動方式を選ぶと、点検中に電源が切れたりケーブルが絡まったりして、やむなく作業を中断したり、再入場による時間とコストの増大を招くかもしれません。

特に、長大な山岳トンネルで発電機の持ち込みが難しく、作業時間に厳しい制約があるようなケースでは、この選択の重要性が増します。

最長区間を一度で連続点検でき閉鎖時間や夜間作業コストを最小化できるという利点を得られるため、必ず事前に確認しておくべき項目です。

ここまでで、現場に応じたトンネル点検ロボットの選定ポイントについて理解が深まったかと思います。次章では、実際に製品を製造している信頼性の高いメーカーを紹介します。

編集部が厳選したおすすめのトンネル点検ロボットメーカー

編集部が厳選したおすすめのトンネル点検ロボットメーカー

トンネル点検ロボットは各メーカーによって技術や特徴が異なります。ここでは、編集部が独自に調査した5つのおすすめメーカーを紹介します。

※JET-Globalの問い合わせフォームに遷移します。
※一部メーカーとは提携がない場合がありますが、ユーザー様に最適なご案内ができるよう努めています。

三井E&S / Mitsui E&S

メーカー名 三井E&S / Mitsui E&S
設立年 1937年
本拠地 東京都中央区
概要 重工・インフラ検査装置メーカー

三井E&Sは、1937年に設立され、東京都中央区に本社を構える重工・インフラ検査装置メーカーです。船舶やプラント分野で培った高度な非破壊検査技術と精密計測力を、土木インフラ分野にも展開しています。

同社が開発したトンネルキャッチャーTC3は、高速道路を走行しながら点検できる車載型覆工撮影システムです。

時速80kmで走行しながらも0.2mm幅のひび割れを検出でき、交通規制不要で点検できる精度とスピードが強みです。

高速道路会社の供用中トンネル点検において運用開始され、国土交通省の性能カタログにも採択されています。

首都高技術 / Shutoko Engineering

メーカー名 首都高技術 / Shutoko Engineering
設立年 2008年
本拠地 東京都港区
概要 道路構造物維持管理エンジニアリングメーカー

首都高技術は、2008年に設立され、東京都港区に本社を構える道路構造物の維持管理をする企業です。首都高速道路の保守現場でのニーズをいち早く技術開発に反映できる体制が強みです。

同社が提供するトンネル点検ロボットやもりんは、施工中のトンネル覆工内部を精密に走行しながら検査できます。

ネオジム磁石により型枠内のわずか70mmの隙間を安定走行し、施工できるだけ止めずに覆工品質を確認できる点が高く評価されています。

首都高速道路のコンクリート打設現場で巻厚確認ロボットとして活用されており、現場での実績も豊富です。

計測検査 / Keisokukensa

メーカー名 計測検査 / Keisokukensa
設立年 1974年
本拠地 福岡県北九州市
概要 非破壊検査・計測システムメーカー

計測検査は、1974年に設立され、福岡県北九州市に本社を構える非破壊検査と計測機器のメーカーです。画像処理技術と3Dレーザ点群をIMUやGPSと組み合わせて統合し、トンネル変状を定量的に可視化する技術が強みです。

同社の主力製品である走行型トンネル点検車MIMMシリーズは、カラー画像と高分解能点群を同時に取得しながら、統合データを自動で展開図として出力できます。

変状箇所を位置付きで自動生成できる統合データ化能力により、従来の記録作業を効率化できるでしょう。

現在は、各地で実用計測が行われている状態です。

JR東海 / Central Japan Railway

メーカー名 JR東海 / Central Japan Railway
設立年 1987年
本拠地 愛知県名古屋市
概要 鉄道運行会社

JR東海は、1987年に設立され、名古屋市に本社を置く鉄道運行会社で、ロボットの自社開発も行っています。高速鉄道で求められる厳格な安全基準を満たすために、独自の自動打音ロボット開発中です。

現在開発中のトンネル検査ロボットは、壁面に沿って走行しながら連続打撃を行い、振動を計測して内部欠陥を評価します。

人の技能に依存せず打音点検を定量化できる自律打音方式は、今後のトンネル点検の標準化を目指す取り組みです。

山梨リニア実験線や小牧研究施設での検証を経て、中央新幹線トンネル保守への適用尾が検討されています。